日本人は傘がお好き

 来日した外国人が驚いたそうである。急に雨が降ってきたら、それまで誰も傘など持っていなかったのに、急に周りの人が皆、一斉に傘をさし始めたのを見た時であった。日本では皆いつも傘を持って歩いているのであろうかと、不思議に思われた。こんな光景を見たのは日本がはじめてだと言っていた。

 日本では雨が降りそうな時には、皆が携帯用の折り畳み傘を鞄に忍ばせているのだろうか。

それも激しい雨なら傘を用意していて良かったと思うが、日本では少しの雨にも濡れてはいけないかのように、殆どの人が傘をさしている。一昔前には、どこかで水爆の実験があったので、放射線を含んだ雨だから濡れないようにしましょうと言われたこともあったが、それならわかるが、今はそんな心配もあるまい。暑い季節の小雨なら、むしろ気持ちが良いので濡れていこうという気になってもおかしくはないのではなかろうか。

 今朝も早朝の散歩中に小雨がバラつきはじめたが、空を見上げると片方は青空だし、降り方からいっても通り雨のようなので、そのままのペースで散歩を続けていた。ところが少し向こうに現れたカプルは二人揃って傘をさしているではないか。空模様を見て家から傘を用意して出かけてきたのであろう。どうも日本では少しでも雨に濡れたくないと思う人が多いようである。

 私などは若い時から不精者のせいもあるのか、戦後の傘も十分になかった貧しい時代を経験しているからか、少しぐらい雨に濡れても、格別困るという感覚に乏しいようである。携帯用の傘を持っていても、一度さしたら、後でまた乾かして、折り畳んでしまう煩わしさを考えて、少しぐらい濡れても平気で、そのまま歩き続けることが多い。雨で衣服が少々濡れても、また乾くものだから、それほど気にしなくても良いのではなかろうか。

 勿論、そこそこに雨が降っていれば、傘をさすのはいうまでもないが、少しばかり体が雨に濡れたからといって、別にどうこういう程のことではない。雨が降るかどうかも分からないのに余分な傘を持って歩くのは無駄だし、傘をどこかに忘れてくることにもなりかねない。

 電車などでの忘れ物でも傘が一番多いものの代表ではなかろうか。勿論、折角傘があるのにそれを利用するなと言っているわけではない。山陰地方では昔から「弁当忘れても傘は忘れるな」と言われてきたように、雨の多い地方では傘を用意するのは当然であろう。

 傘を持たない時に大雨でびしょ濡れになるのはやっぱりご免被りたい。夏のにわか雨で慌てて近くの軒下で雨宿りした経験も多い。最後に覚えているのは、嵐山の落柿舎の近くで夕立に出会った時のことだったと思う。

 ついでに言えば、ロスアンゼルスにいる孫は殆ど雨を知らないので、子供の時、日本へ来て雨降りで傘をさしたのが珍しい経験だったらしく、その時さしたピンクの傘が気に入っていたが、今もその傘が我が家の玄関の戸棚に置かれたままになっている。

 近年はインバウンドの人たちが増えたが、強い雨の時でも、ビニールのレインコートを着て傘は持たない人が案外多いことに驚かされる。日本ではテレビの朝の天気予報ですら「時々雨なので折り畳みの傘を持って出かけられるのが良いでしょう」と言ってくれている。

 雨の多い国と少ない国では、雨に対する感覚も、それに対する対策も意外に違っているようである。