介護の「自立支援」は介護問題の解決にはならない。

 この国では年とともに老人が増え、当然のことながら、介護保険を利用する人も増えてくる。そのため、65歳以上の介護保険料も上がり、国の負担も増える。

 介護保険制度が始まった2000年度の給付費は3.2 兆円だったが、18年度には9兆6千億円と3倍にまで増え、65歳以上が払う介護保険料も、全国平均で、00年度には月額2911円だったのが、20年度には2倍の5860円となっているそうである。

 今後もますます増える高齢者を見込んで、政府は何とか介護費用の増加を抑えようとして色々工夫もしているが、その中で障碍の軽い老人には、介護予防や自立支援に力を入れて、要介護になる人を出来るだけ減らそうという試みに力を注いでいるらしい。

 要支援と判定された高齢者を訓練して、自立支援といわれる状態にまで持って行き、その後も、介護予防拠点などでフォロウして、介護を必要としない期間を出来るだけ延し、介護給付費の増加を抑えたいわけである。

 自立出来て、健康寿命が伸びることは良いことだが、目的の介護費用の抑制が強調され過ぎると、ケアの必要な人がお荷物のように扱われる社会になりかねない恐れがある。政府が自立支援に取り組み、利用者の身体機能を改善させた場合に成功報酬を出したり、自治体に交付金を上積みしたりしているそうで、益々それを助長することになりかねない。

 それが嵩じると、事業者が改善の見込みのある人だけを選別して受け入れることにもなり易い。更には、認知症にまで予防を強調する動きさえ出て、認知症になるのは努力が足りないからだという偏見さえ生み、認知症の人の尊厳が脅かされることにもないかねない。

 それに、健康寿命を延ばして平均寿命が延びても、老人が減るわけではない。自立支援が成功して自立出来ても、老いは一方的に進むものだから、いつかまた機能が落ちて老化が進むのは必然で、それらの老人にも、医療や介護の必要な時期は必ずやってくることになる。そのため、全体としての医療費や介護費が減るわけではなく、単に先送りするだけのことである。

 予防に取り組むのは、あくまでもその人の生活の質(QOL)を高めるためであり、介護費用を減らすために役立つものでないことを知っておくべきであろう。