映画「Father」

 映画「Father」を見た。かっての名作「羊たちに沈黙」の主演のアンソニー・ホプキンスが、歳をとって今や81歳だとか。その彼が同世代の認知症の老人を演じ、娘役のオリヴィア・コールマンとともに賞をもらった作品だそうである。

 昔からの自分のフラットに一人で住む老人は認知症にかかり、心配して時々様子を見にくる娘が手配してくれた家政婦とうまくいかず、自分が隠していた腕時計を盗んだなどと疑ったりして追い出し、それを知った娘が急遽父親のフラットへ急ぐところから始まる。

 困った娘は苦労して新たな家政婦を探して、来てもらうが、現実と幻想の境界が崩れいく父は、誰ともうまくいかず、戸惑う娘は仕方がなく、夫と二人暮らしのフラットに引き取ることとなる。しかし、そこでも環境に適応出来ず、夫の腕時計を自分の行方不明のものではないかと疑ったり、夫との間でいろいろトラブルを起こして、夫を怒らせたりすることとなる。

 介護人ともうまくいかず、娘も父親の世話と、自分の人生の間の葛藤に苦しめられる。最後は、仕方なく、老人ホームに引き取られて、益々進む認知症の中で、現実を理解出来ないままに、介護人の温かい抱擁の中で泣き崩れるところで終わるという、孤独な認知症の男性の運命を描いた映画である。

 アンソニー・ホプキンス自身が同年代なので、自然に振る舞えさえすればば良かったという通り、素晴らしい演技で、認知症に苦しみ、混乱した周囲の認識に弄ばれる老人の日常を巧みに表現していた。フラットの映像やバックの音楽も良く、崩れた現実の中での孤独な老人の姿が、我が事のように感じさせられた。

 助演の娘役のオリヴィア・コールマンも素晴らしく、アカデミー賞最有力の作品だとパンフレットにあったが、それに相応しい今も余韻の残る映画であった。