サマータイムに反対しよう

 オリンピックと猛暑が重なるので、サマータイムを導入して朝の早い時刻から競技を始めるようにしようという案がオリンピック委員会あたりから出され、政府もそれに乗り気で、衆議院議員の船田元氏などが自分のサイトなどで意見を述べているようである。

 それに対する反対意見も多いようだが、今から毎日のようにマスコミをあげてオリンピックのことで騒ぎ立てている状況から見ると、自民党あたりからサマータイムにしろという声が上がり、法案として国会に上がってくる可能性も小さくはないようである。 

 サマータイムについては戦後GHQの要請で、日本でも既に実行された経験があるが、結局、日本ではなじまないとして3年か4年で取り止めになった歴史がある。

 それをなぜまたオリンピックのために取り上げなければならないのか。誰でも疑問に思うのが当然であろう。オリンピックは選手たちのスポーツ競技であるから、それを開催するためにスポーツ選手が活躍しやすいように配慮するのは当然である。

 しかし、オリンピックは「東京オリンピック」であり「日本オリンピック」ではない上、いかに盛り上がるにしろ、社会の諸活動のほんの一部の事に過ぎない。そのために直接関係のない人々や、社会の分野までも巻き込んで、社会の時間体制まで変えねばならない必然性があるのだろうか。 オリンピックの暑さ対策は、先ずはオリンピック委員会やそれを主催する東京都の出来る範囲で考慮すべきことであろう。

 もともとこの猛暑下の競技の問題は、オリンピックを誘致するために多額の賄賂を使った上に、あらかじめ決められていたこの季節を「この時期の天候は晴れる日が多く、且つ温暖であるため、アスリートが最高の状態でパフォーマンスを発揮できる理想的な気候である」とまで言って誘致したところにあるのであり、この季節の開催に問題があるなら、違約金を払ってオリンピックを取り止めるか、IOEと掛け合って、秋の開催に変更してもらうのが、もっとも正しい解決法なのではなかろうか。

 それを国民全体を巻き込んで、サマータイム導入で乗り越えようとするのはあまりにも安易で姑息な、他人迷惑な解決法であろう。まさかオリンピックを成功させるためには国民が一致してどんな犠牲をも払うべきだというのではなかろう。

 世界的に見ても、サマータイムは見直される時期に来ており、サマータイム導入の歴史の古いヨーロッパでは廃止の検討がされているところもあるぐらいなのである。 またデイライトセイビングタイムと言われる、夜間のエネルギー消費の減少やレジャー活動の活性化の効果も明らかではなく、むしろ、体内時計に対する影響も大きく、実施国で心筋梗塞が増加したというデータもあるようである。

 しかもサマータイム導入には莫大な費用もかかるし、それに伴う電子機器などについての混乱が伴う恐れもある。その上、生活習慣が乱されるなど問題点も多い。

 オリンピックを盛り上げることにやぶさかではない。今年の夏の異常な暑さを見ても、猛暑対策は不可欠であろう。英国の「タイムズ」紙は今年1月、既に「東京五輪では選手だけでなく観客も極度の蒸し暑さによる熱射病で死亡するリスクにさらされている」と報じている。熱中症を恐れる発言も多い。

 しかし、オリンピックは国威発揚の場ではなく、個々の選手の競技の場であることを忘れてはならない。オリンピックの準備は大切であるが、2年も先のことに対するマスコミなどの現在のはしゃぎ様を見ていると、少し度を超しているようにも見受けられる。それが挙国一致で、オリンピックを応援すべきで、そこから外れるものは非国民だという風潮になりかねないことを恐れる。

 世界から訪れる選手たちが自己の最高の力を発揮出来るように準備することは開催国としての義務であろう。しかし、オリンピックは色々な国際的、社会的な出来事の一つに過ぎない。オリンピックに関心の深い人もおれば、関心の薄い人、ない人もいる。忙しくてオリンピックどころではない人もいるであろう。

 すべての人を巻き込んで、国中が一体となってオリンピックを迎え、それを国威発揚に利用しようというようなことはIOC 憲章にも違反することである。オリンピックのためにサマータイムを導入するような愚挙は止め、静かにオリンピックの世界の選手の活躍を楽しむようにしたいものである。

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