映画「焼肉ドラゴン」

 映画「焼肉ドラゴン」を見てきた。以前に見た映画「月はどっちに出ている」の脚本を書いた鄭義信(チョンウイシン)氏の原作で、戯曲、演出家として日本、韓国で舞台に乗せて、数々の賞に輝いた作品の映画化らしい。

 扱っているのは、1970年の大阪万博の頃の時代設定で、その頃まであちこちの見られたいわゆる”朝鮮部落”が舞台で、そこで焼肉屋をやっている一家の物語である。主人公の名前が龍吉なので、「焼肉ドラゴン」ということになっているようである。

 在日の朝鮮人には戦前から日本に住み着いている人に加えて、戦争中、徴用で日本に連れてこられた人たちで、戦後故郷に帰りそびれた人たち、また、殊に大阪では、1943年の済州島での4・3事件に絡んで命からがら逃げてきた人たちも多く、それらの人たちが部落を作って、お互いに助け合いながら生きてきた歴史がある。

 この映画の家族も、竜吉は済州島出身なのだが、戦時中に軍隊に取られ、戦争で左手を失い、戦後引き揚げの船が沈んで全財産をなくし、済州島の親族は皆殺され、日本で生きていく覚悟を決め、「昨日がどんなでも、明日は、ええ日になる」と強い気持ちで一生懸命働いてきた人として描かれている。

 細君は子持ちの寡婦で、前妻の娘が二人おり、この三人娘と二人の間の男の子が一人という家族。三人娘は男との関係でもめているし、息子は学校での差別に負けて自殺する。戦後のどさくさに主人公はある人物から自宅を買ったのに、部落は国有地だからといって立ち退きを強要されるなど、過酷な運命にも強い意志で暮らしていく。

 この国における在日韓国人に対する執拗とも言える差別、その戦後の歴史や社会をも知っているだけに、見ているだけで思わず胸がこみ上げてくるような感じにもさせられるところもあった優れた映画である。

 最後は部落の立ち退きで、皆が去って行くことになるのだが、三人の娘たちはそれぞれに相手を見つけ、一人は韓国へ、一人は北朝鮮へ、もう一人は日本で暮らすことになる。そして、残された夫婦がそれでも頑張るぞとリヤカーを引っ張って去って行くシーンで終わることになる。

  ただ、欲を言えば、高度成長の万博時代における、その時代の一般社会と、朝鮮部落という限られた世界との格差の移り変わりがもう少し背景に描かれていたら良かったのではないかという気がした。先日見た「万引き家族」とはまた少し雰囲気の変わった作品で、我々の世代には特に感動的な素晴らしい映画だったと言えるであろう。