アイヒマンはヒトラーの意思を「忖度」してユダヤ人を虐殺した

 以前にアメリカの空軍基地からドローンの無人機によるイスラム国への攻撃について、係りの兵士は倉庫のような部屋の中で、モニターの画面だけを見ながら、忠実に命令に従ってドローンを飛ばしていただけだが、攻撃される先では多くの無辜の住民までが犠牲になっている悲劇について書いたことがあった。

 それはヒトラーの命令を忠実に聞いて、真面目に多くのユダヤ人を殺戮したアイヒマンのケースと変わらないのではないかということを非難したものであったが、先日の朝日新聞の政治季評欄における早稲田大学の豊永郁子教授を読むと、ヒトラーの命令があったことは明らかでなく、むしろ否定的で、各地で展開された大量虐殺も含めて、これらの非道な行為は殆ど皆ヒトラーの命令ではなく、その意思に対する「忖度」が起こした可能性が強いという。

 「アイヒマンヒトラーの意思を法とみなし、これを粛々と、時に喜々として遂行していたことは確かだ。しかし大量虐殺について、ヒトラーの直接または間接の命令を受けていたのか、それがあがなえない命令だったのかなどは、どうもはっきりしない。」と書いてあり、ニュルンベルク裁判などで見ても大量虐殺に関するヒトラーの命令の有無についてははっきりしていないようである。

 この教授は前国税局長官佐川宣寿氏の証人喚問を見ていて、このアイヒマンを思い出したと書いてられる。命令がなくとも、大きな組織でトップの方針があれば、部下たちは組織の中での自分の立場を考え、トップの意向を忖度して行動することになりがちである。今の官僚組織などはまさにその典型であろう。

 忠実な官僚であればこそ、自己の出世欲や金銭欲、出世欲、競争欲などと現在の立場を考慮する時に、得てして基本的な人間としての立場を忘れて、周囲の雰囲気の中でいかに生きていくかが優先されることになりがちである。個人としては優れた人も、大きな組織の中では、その中でいかに利口に生きていくかを考えることになる。

 それがあらぬ「忖度」となり組織までをあらぬ方向に導き、誤りが発覚しても姑息な手段や、嘘をついってでも組織を守ろうということになる。ハンナ・アーレントが指摘したアイヒマンも真面目な官吏で、その行為も正にこういったことだったようである。

 森友、加計両学園に絡む佐川氏や簗瀬氏らは何とか国会での追及などをかわしたようであるが、官僚たちのこれら「忖度」の行為は、単に現政権における問題だけでなく、この延長線上ではアイヒマンのもたらした残虐行為と同じことが、将来また起こりうることを示す恐ろしさを知るべきであろう。