「#Me Too」運動の報道で不思議なこと

 昨年アメリカで、ハリウッドの大物がセクシャル・ハラスメントを暴かれて失脚してから、多くの女性が「#Me Too」の呼びかけに呼応して、セクシャル・ハラスメントに対する告発が大きな運動となり、雑誌TimeのPerson of the year にも選ばれるなどして、それが日本にも広がってきて、日本でも声をあげる人が増えてきたそうである。朝日新聞もそれを取り上げて、今年に入ってからシリーズで『「#Me Too」どう考える?』という特集を組んでいる。

 そこでは男女を問わず、色々な人の意見や識者と称する人たちの意見などを載せていて興味深い。その集計結果などを含めて見ても、日本ではまだまだ男社会であることがわかるなど、時宜を得た記事であるが、ただこれを見ていて不思議に思うのは、これだけこの問題が大きな社会の関心を持たれるようになっているにも関わらず、日本の大新聞が何処も取り上げないこの範疇の事件があることである。

 元TBSの記者で安倍首相を褒め上げた本を前回の選挙の直前に出した某氏が伊藤詩織さんという女性に加えた準強姦罪といわれるものについて、被害者の告発で警察の逮捕状が出ていたのに急に上司からの命令で取り消された事件である。

 被害者はカミングアウトして、現在も民事訴訟で係争中で、ブラックアウトという本まで出して世間に訴えており、今ではニューヨークタイムズやフランスのフィガロ、その他のヨロッパの新聞も大きく取り上げている。

 これだけ外国でも取り上げられ、材料も揃っておれば、普通なら週刊誌などが喜んで大々的に取り上げるところであろうし、これだけ新聞やテレビがMe Too運動を取り上げるならば、その条件に一番ピタリと当てはまる絶好の事件だと思われるのに、どこも取り上げないのはどうしてであろうか不思議でならない。

 朝日新聞にしても、Me Too のシリーズ記事を出しながら、これまで4回分が済んだところではあるが、今までのところ「はあちゅうさん」や岩手日報の女性記者の名前は見たものの、何故か伊藤詩織さんの事件については名前さえ出ていない。

 知らなかったが、 NHKが1月22日の「クローズアップ現代」ではこの問題を取り上げていたそうだが、逮捕寸前で突如逮捕状が取り消されてことや、相手である某氏が安倍首相と昵懇な記者であることなどには全く触れずじまいだったそうである。

 疑えば、こんな所にも首相官邸からの見えない圧力がメディアにかかっていて、それへの”忖度”から強いて無視されているのではないかと思わさせられる。もしそれが真実であれば、もはや報道界の自殺行為である。

 官邸筋の圧力なり、それへの”忖度”であっても、このようなことが事実であれば、法治国家の崩壊である。戦時中の極端な偏向報道に対する戦後の報道界の深い反省ももはや失われたのであろうか。再び大本営発表に踊らされた暗い戦時の破滅への道をまっしぐらにつき進むことになってしまうのではないかと恐れる。それが杞憂であることを望むばかりである。

 Me Too運動はぜひもっと進めて欲しい。人口減少、少子化高齢化の日本の進む道は男女同権を実質的なものにし、国民の多様性を尊重、定着させて、多様な人材を育てていくよりないと考えるからであるが、それとともに政府とメディアとの癒着が法までも超えるようなことに対しては厳しく対処するべきだあろう。