8月24日の朝日新聞によれば、「処理水放出24日にも」という大きな見出しの下に、「一定の理解と首相ら判断」「全漁連会長らと面会、きょう正式決定」と書かれている、しかし、そのすぐ後には『漁業者は懸念「反対変わらぬ」』と出ているではないか。
どうも政府は漁業者の懸念を無視して、一定の理解が得られたものと強引に判断して、風評被害の補償をすれば良いだろうと言うことで、 ALPS処理した汚染水の海洋放出に踏み切るようである。
政府と東京電力は2015年に、処理水について福島県魚連に「関係者の理解なしにはいかなる処分も行わない」と文書で伝えた過去があるのである。にも関わらず、岸田首相との面会を終えた福島県魚連の専務理事は「福島の漁民が反対する中。一方的に放出が行われる」と答え反対の姿勢を崩さなかったと書かれているではないか。
これでは明らかに約束違反である。放出の根拠如何に関わらず、これでは政府が約束を破ったことは明白である。岸田首相の言う「一定の理解を得た」の内容がどのようなものにしても、会見後の漁業者の反対意見を聞けば、政府の約束違反は許せない。
政府側は「反対が続けば復興も遅れる」と脅して海洋放出を開始しようとしているが、少なくとも、約束が守られるよう先送りして、漁業者と話し合い説得して同意をうるべきであろう。政府の明らかな約束違反は単にこの海洋放出問題に関わらず、政府の今後のあらゆる施策にも影響を及ぼすものである。
この強引な態度の約束違反は別にしても、政府はIAEAのお墨付きを貰い、海洋放出を始めようとしているが、放出は一時的なものではなく、原発処理が終わるまで、半永久的にも続けられることになるのである。放出時の濃度ばかりでなく、放出される期間や、総量も問題であろう。
また、表面には出ていないようだが、他の残存放射性物質はゼロと仮定し、トリチウムだけが問題としても、その弱い放射性物質としての性質だけでなく、有機物の水素に置き換わって結合したトリチウム(Organic bound Tritium=OBT)の行動についても注意を向けなければならないのではなかろうか。
有機物質の水素に置き換わったトリチウムは半減期12.3年で必然的にヘリウムに変化するが、その時に起こる現象などについては詳には解明されていない。トリチウムを取り込んだDNAのトリチウムがヘリウムに変わると、ヘリウムは何とも結合しないので、DNAが破壊されるとも言われる。
カナダ原発によるオンタリオ湖の事故の場合にはダウン症、先天的心疾患、染色体切断、ガンなどが見られたこともあるとか。トリチウム海洋放出の問題はIAEAの認めた放射性物質としてのトリチウムの一時的な濃度だけでなく、放出される期間や総量をも考慮し、OBTについても問題にしなければならないであろう。
基本的にはトリチウムの放出より、トリチウムの生成を断つことが根本的な対策であろうが、そちらの対策は進展しているのであろうか。破損した原子炉の放射性物質の除去には目処がついたのであろうか。トリチウムと水素の物理的性質を利用した分離法の研究などは進んでいるのであろうか。
原発を動かしている以上微量のトリチウムは出るし、トリチウムの放射性物質としての毒性は弱いので、海洋放出の実質的な差し当たりの影響は少ないであろうが、日本の場合は処理水と言われるものにはALPSで処理するとはいえ、他の放射性物資が常にゼロというわけではない。それを何年も続けた場合には、大洋の汚染にも繋がり、OBTの問題なども考えておかなければならないであろう。
先ずは政府が十分な説明をして約束を守ることが先決である、決して見切り発車すべきではない。その上で、廃炉を進め、トリチウムの発生源を絶やすこと、更にはトリチウムの分離に務めること。そうした上で、処理水の海洋放出しかなければ、期限を区切って、ALPSなどによるトリチウム以外の放射性物質除去に万全を期し、様子を見ながら慎重に行うことが必要なのではなかろうか。
政府の言うおおまかな安全性の強調は、「安全なものなら、これまで貯めておく必要もなかったし、飲料水としても利用可能なのでは」と言われても反論できないのではなかろうか。