不死王閣

 コロナのお蔭でここ何年か帰国出来なかった娘夫妻が漸く帰って来た。これまで帰って来た時には、いつも家族揃ってあちこち旅行したりしたものだったが、今回はまだコロナが流行っているので、そういうわけにもいかない。

 近くの温泉にでもと思ったが、近くはもう大体行き尽くしている。有馬は前回「中の坊」に泊まったし、白浜も城崎も既に行っている。遠くへはコロナがあるので遠慮した方が良いし、どこが良いかはたと困った。

 挙句の果てに思い出したのが、地元の池田にある「不死王閣」であった。ここなら池田駅から送迎バスがあるし、5〜6キロの距離なので、歩いてでも行ける距離である。

 ただ私にとっては、人を接待するにはあまり良い場所とは思えなかった。昔から存在はよく知っているが、以前は「伏尾の鮎茶屋」と言われ、鮎の釣り堀があって、釣った鮎を料理してくれるような所だったと思う。

 それがいつ頃からだろうか、もうかなり前のことになるが、鮎茶屋がいつの間にか不死王閣とかいう変な名前のホテルになっていたのを覚えている。ちょくちょく広告を見たり、久安寺という紫陽花や紅葉などでも有名な古刹へ行く途中で見かけたりしていたが、殆ど無視していた。

 ところが今年の初めだったかに、知人から行って来て良かったので、一緒に行かないかと誘いがあり、コロナの再燃で断ったが、そんなに良くなったのかなとちょっと再認識したこともあったので、今回はここに決めた。

 そんな訳であまり期待していなかったが、着いてみると、思ったより立派なホテルとなっており、まあまあ何とか許容出来る宿泊で、温泉もほんまものの炭酸泉で、広さや設備もまあまあ整えられており、ゆっくり一晩泊まることがで出来た。夕食は老人には多過ぎるご馳走であった。

 おまけに街から近いのに、すっかり緑の囲まれた場所で、一見、深山幽谷の雰囲気で、早朝の日の出が素晴らしかった。朝食後、近いので歩いて久安寺へ行き、誰一人いない広い境内をゆっくり散策し、鐘をつき、お寺から山道を通って池田の家まで歩いて帰った。

 なお、不死王閣という名前については、昔、久安寺の関係で、某天皇がここで生まれ、その無事の生育を願って不死王村という村名がつけられ、それが後代なまって伏尾村となったのだそうで、ホテルも名前もそれにあやかってつけられたということであった。

  おそらく、帰国すれば温泉に行かねば気が済まない娘も娘の旦那も、ゆっくり出来たであろう。翌日も京都などと違って人のいない静かなお寺や、昔懐かしい山辺の風景に満足出来たであろうと思っている。