過去を認め未来を目指せ

 一昨日だったか本屋を覗いて驚いた。入口のすぐ奥の棚に色んな雑誌が並んでいたが、文藝春秋もVoice もWillもどれも表紙は朝日新聞を非難する見出しばかりである。朝日新聞慰安婦問題で以前に書いた吉田調書が間違いだったことを報じたことがきっかけになり、朝日新聞の吉田調書の誤って報道のお蔭で日本の名誉が傷つけられたというのである。

 多くのマスコミがこうも揃って同業者を非難するのは珍しいことであり、しかもその取り上げ方も異常である。まるで朝日新聞の誤報が慰安婦問題のすべての原因であるかのような書き方で、中には売国だとか国賊、国辱などという言葉まで見られる。

 その上、安倍首相までが『朝日新聞』の「誤報」によって、「日本のイメージは大きく傷ついた。日本が国ぐるみで「性奴隷」にしたと、いわれなき中傷が世界で行われて いるのも事実だ」(10月3日の衆議院予算委員会)などと言うところをみると、もう常識をも逸脱した格好である。何か裏の世界で隠然たる力が働いて一斉に朝日新聞たたきのキャンペーンを始めたような気がして空恐ろしい感じがする。

 なにも吉田調書なるものだけが証拠で慰安婦問題が持ち上がったわけではない。一般に被害者の方が加害者よりもよく憶えているもので、慰安婦の強制連行についても韓国の方が証拠は多いだろうし、政府も認めている河野談話も吉田調書を根拠に慰安婦問題の存在を認めたわけではない。今日の新聞によると政府は国連人権委員会が発表した「クマラスワミ報告」にも修正を求めたが、そこでも「吉田調書は証拠の一つに過ぎない」と拒否されたようである。

 戦時中の日本での朝鮮人の扱いは今のヘイトスピーチよりもひどいもので、朝鮮人とも言わず、チョウセンあるいは鮮人といって一段下の人間と見なしていたので、慰安婦が強制連行されたものでなくとも、当時の常識からすればどんな扱いをされたか容易に想像出来ることである。日本人の女性に対してすら殊に貧しい人に対しては蔑視が強く乱暴に扱われていた時代である。「慰安婦問題」があったことは否定し難い。

 それをどうしてこうまでして誤摩化そうとするのか。不思議でならない。諸外国の信頼を失くすばかりである。何処の国も時代とともに進歩もし、文化も変わって来るものであり、過去に汚点を持っているものである。アメリカにも黒人奴隷の時代もあったし、ナチスユダヤ人虐殺の歴史もある。それと同じように日本にも慰安婦のような問題があったのである。世界中で認められている事実をどうして否定しようとするのであろうか。過去の歴史は変えられないが、その歴史の反省の上に新しい歴史が作られるのである。過去から総て完全無欠な歴史の国など何処にもない。

 過去の非は率直に認め、それを改め新しい歴史を作るべきではないか。日本は戦後日本として戦争の総括をしないままできてしまったことに重大な欠陥があったのだが、過去を否定することは出来ない。それを誤摩化すことは現在および将来のあり方まで疑われることになる。

 敗戦後のドイツのように過去をすべて否定して新しい国を作ってこそ世界の信頼を勝ち取ることが出来るであろう。世界的に否定しようもない過去の慰安婦の問題を潔く認め、その真の反省の上に立った新しい行き方をすべきであろう。さもなければこの国は将来まで世界の信頼を勝ち取ることが出来ないであろう。どうしてかたくなに自己の過去の悪行を認めようとしないのか理解出来ない。国の将来に取っても大きなマイナス点となるだけである。