徴兵検査

 安倍政権による集団自衛権行使の閣議決定がされ、自衛隊が外地で殺し、殺されたりする戦争に巻き込まれることになると、これまで人を殺した事のない自衛隊が変わり、外国で戦争等するようになると、自衛隊への応募者が減るので、やがては徴兵制が引かれ、若者は「お国のために」軍隊に行って訓練を受けねばならなくなるのではないかと言われるようになった。

 「大日本帝国」にも当然徴兵制があったので、男子は皆二十歳になると徴兵検査を受けねばならない事になっていた。しかし、誰しも自分の生活を横へ置いて兵隊になるのは嫌である。その上昭和の初め頃から日本はずっと戦争をしていた。そんなところで兵隊に行けば何時死ぬとも限らない。何とか兵役を逃れる方法はないものかと考えた者も多かったとも言われる。

 金持ちはそれなりに金を使ってその筋に働きかけて、近視だの、精神衰弱だのの病氣にしてもらったり、長男は除外された時代には次男以下を子供のない小作の家の養子にしたり、色々工夫をしたようだが、お金のない一般庶民はそういうわけにもいかない。

金のかからない逃れる方法は病氣しかない。病人は兵隊にしても役に立たないからである。

 しかし当時は医療も今程発達していなかったので本当の病氣になれば命が危なくなるかも知れないし、そう思うように軽くてあまり苦しまずに長期間続くような都合のよい病氣があるわけがない。仮病を使うよりない。それでも必死になって抜け道になる仮病を探したようである。

 私の聞いた話では、当事は結核が蔓延していたので、徴兵検査では胸部のX線検査が行われたが、当事のX線は解像力があまり良くなかったので、検査の時にこっそりと銀紙を胸に貼付けるとその影がうつり、結核の影のように見えるので結核として徴兵検査が不合格になり兵役を逃れる事が出来たそうである。

 また検査の前に醤油を一気に一升飲むと顔面蒼白になり貧血と思われて不合格になるといううわさが拡がった事があったとも聞いた。

 更には耳が聞こえないと矢張り兵隊には出来ないので耳が聞こえない振りをする人もいた。聴力検査は今でもそうだが、被験者の聴こえる聴こえないの返事だけに頼る検査なので、誤摩化し易い。そのかわりそれにに立ち会う軍医もさる者で、検査が終わった時点で被験者に「お前は耳が聞こえないから即刻帰国だ。こちら側へ行け」と命令する。被験者はつい喜んで急いでそちら側へ進む。それを確かめて「こら!お前はちゃんと聞こえているじゃないか」とうそをばらすことになる。

 当事の軍医はこうした兵役拒否者を見つけることも大事な仕事であったそうである。

 こういうインチキがばれると当時のことだから、軍法会議にでもかけられ、通常の裁判よりも重い刑にかけられるおそれもあっただろうが、それでも何とか兵役を逃れられたい一心で当時の人たちはそれなりに色々苦労したようである。

 集団的自衛権行使容認というニュースを伝えて新聞にやがて徴兵制度かと書かれていたのを見て、昔の徴兵検査の話を思い出した。そんな嫌な日本にまたなってしまうのではないか心配である。軍隊は国を守るためのもので、決して国民を守るためのものではないことは沖縄戦の歴史などが教えてくれている。