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薬が効くとは?

 ある本を読んでいたら、中に面白い話が載っていた。

 チベットの病院での話。上海から来た西洋人の医師が肝臓ガンの患者をある抗がん剤で治療したが、やがて患者は亡くなった。ただ、亡くなる前の検査でガンは小さくなっていた由である。死後の症例検討会でその医師は「腫瘍が小さくなっていたのだから治療は成功だった」と言った。しかしそれを聞いた多くの中国の医師たちは、驚いて「患者が死亡したのに、どうしてそれを成功と言えるのだろうか。抗がん剤は効かなかったではないか」言ったそうである。

 腫瘍が小さくなっていたのだから抗がん剤はガン細胞の増殖を抑えることには一定の効果はあったのであろう。しかし、効く効かないは患者の病気が良くなるかどうかの判断であるから患者が死んだのであるからこの抗がん剤は効かなかったというのが正しいであろう。抗がん剤がガン細胞の発育を抑えたところで、薬の他の作用も含めて全体としては体の機能を損ね命を縮め死に至るのを防げなかったのであれば、薬としては効果がなかったと言わなければならないだろう。

 ただし、腫瘍を小さく出来た薬の作用については注目すべきであり、腫瘍の縮小作用以外の薬の作用を改善するなり、そのような作用のない似た薬を探すことによって、腫瘍を小さくも出来、命を長くしうる薬を開発する手がかりになるであろう。

 しかし、だからと言って単純な腫瘍の大きさの縮小のみを持って薬の効果を判定するのは誤りであろう。あくまで薬効は体全体に対する効果の総合判定であり、腫瘍の発育などに対する影響だけではなく、それを投与された人の全体の反応で効いたか効かなかったかが判断されるべきものであり、死は一番明瞭な総合的判断の指標であろう。

 西洋人の医師の言った意味も分からぬことはないが、薬の判断としては臓器ではなく病人というより広い世界に的を定めるべきである。生物科学的分析的な薬剤開発が進められ治療に利用されるほど、直接の薬効など分析的な見方に支配されて、患者が見失われ、臓器や組織があたかも薬の対象全てのように思われがちであるが、薬は病の治療に用いられる限り、その効果の判断は全人格の病人を対象にしていることを少なくとも医師は忘れるべきではないであろう。