首相官邸の三権分立図

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 三権分立は誰でも知っている日本国憲法の下での我が国の政治の基本骨格であり、そのわかりやすい図示は誰でも見たことがあろう。上の図は衆議院のHPに乗っているものである。主権在民で主権者たる国民が中心におり、立法府である国会、行政府である内閣、司法機関である最高裁判所がそれぞれ独立しており、それらは相互の図のような関係で牽制し合い、それらを国民が選挙や国民審査、並びに世論で調整、監視して成り立っていることは皆が知っている通りである。

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 ところが、最近 SNS上で知ったのだが、総理官邸のHPに載っている三権分立図(二番目のすぐ上の図)では、よく見られる図と違い、国民から内閣に向かう「世論」という矢印だけが逆方向になっており、内閣から国民に向かい、「行政」と書かれていることを発見した。

  これは間違いでも何でもなく、首相官邸が古くから用いてきた図らしく、おかしいと思って調べた人によると、このHPの三権分立の図は少なくとも20年前から今のようになっているのだそうである。ただし、首相官邸の同じ三権分立図でも、子供向けのものは衆議院のものと同じく、国民と内閣の関係は国民から「世論」の矢印が内閣に向かうものとなっていることも分かった。誰でもそれぞれのHPを覗いてみれば確かめられる。

 同じ首相官邸のHPには二番目の図とは異なった他の図もあるが、それでも上図同様に内閣から国民に向けた「行政」の矢印が描かれているので、官邸においてはこの図が通用しているようで、これが非強な場合に正式な根拠となって、物事が進められているものと見るべきであろう。

 この図を時計方向へ120度回転させてみると、内閣が大元の権力を握り、行政を通じて国民を支配し、国民を通じて立法府にも司法府にも影響力を及ぼすという恐ろしい関係が見えて来るであろう。

 日本では、日本国憲法第1条により「主権の存する日本国民の総意」で国家を統治することになっており、「国民主権」で、主権者の代表たる国会が行政や司法を支配する一元支配が原則なのだそうである。

 しかし、少しばかり調べれば分かるが、実態は違い、法案の80%以上は官僚の書いた内閣提出法案であり、国会は立法機能を果たしていると言えないし、裁判所もめったに違憲判決を出さず、それによって立法が変えられることもない。結局、実態は日本は官僚機構に三権が集中する行政国家だということらしい。

 立法権も実際に法案を作成する官僚が握り、政令・省令や逐条解釈で法令解釈も官僚が決め、行政処分で警察権も官僚がもつ。それにより日本は官僚機構が行政だけではなく立法・司法機能をもち、行政の裁量が拡大する官僚独裁の傾向が強い。その上に乗っかった内閣が行政を支配している議院内閣制が我が国の支配体制ということが言えるのではなかろうか。

 そのように見れば、三権分立図でも、主権者である国民から内閣への「世論」による制圧よりも、遥かに強い内閣からの国民に向けての「行政」が政治を動かしているという官邸の思いが反対方向の矢印を書かせたものであろう。

  日本にはこの行政国家をチェックするシステムがないのことがこのようなことを容認している一因でもあろう。恐ろしいことであるが、現在問題となっている検察人事への政府の介入を見ていると、政府は本気で内閣を最高権力者として、国会や司法府を手下の関係にして、国民に望もうとしているのではないかと疑いたくなる。かって安倍首相が自分を立法府の長だと言い間違えたのも、単なる言い間違えではなく、ついうっかり本音が出たものかも知れない。

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 本来主権者たる国民と分立された三権との間にはこの三番目の上の図のような両方向の関係があるが、そのいずれの関係においても、民主主義国家においては国民が中心である。その国民の生活を助け維持するために、国民から三権それぞれに委託があり、それに答えて、それぞれからの国民に対するサービスがあるというのが三権分立の姿であろう。

 当然、国民と内閣の関係についても、「世論」が先で、それに見合った「行政」のサービスが行われるのが本来の姿であろう。ところが、首相官邸の見方では内閣が一方的に国民に行政を行なっているという見方なのであろう。民主主義を守るためには、国民投票法の活用なども含め、もっと「世論」の力を強める必要があるのではなかろうか。