どこからかの言葉に寄せて

 新聞を見ていて、谷川俊太郎の「どこからか言葉が」の「いのち」(2023.5.21.朝日新聞)という詩が気に入った。 老人の心境にぴったりの素晴らしい詩ではなかろうか。どうしても記憶しておきたいので、ここに引用して記させて貰っておくことにした。

 『 ある年齢を過ぎると 

   どこも痛くなくても

   体がぎこちない

   けつまずいて転んでから

   それが分かり

   体は自分が草木と

   同じく枯れてゆくと知る

 

   人間として

   社会に参加した

   忙し(せわし)ない「時間」は

   悠久の自然の「時」に

   無条件降伏する

   落ち葉とともに

   大地に帰りたい

   変わらぬ夜空のもと

 

   言葉で意味を与えられて

   人生は素の生と異なる

   己が獣とも魚とも鳥とも違う

   生きものなのを

   出自を共にしながら

   人は誇り

   人は恥じる 』

 

 まるで私の感じていることを、そのまま代わって詠んで貰ったような詩である。谷川さんが1931年生まれだから、私より三つ若いだけである。人はここまで生きてくると、皆同じような心境を抱くようになるものらしい。

 私も悠久の「時」にはとっくに無条件降伏しているが、「己が獣とも魚とも鳥とも違う生きものなので」恥らいながらも、ひそかに未来の夢を抱いたままに「変わらぬ夜空のもと」に眠りたいと思っている。