「シチ」か「ヒチ」あるいは「ナナ」か?

 数字の七は音読みで「シチ」訓で「ナナ」が正しい読み方であろう。しかし、「シチ」は読み難いためか、地方によっては訛って「ヒチ」と読まれたり、数字なので間違いを避けるために、訓読みの「ナナ」を使ったりすることが多いためか、その読み方は人により、またその場によって、随分まちまちのようである。

 数字の「1、2、3、4、5、6、7、8、9、10」は言うまでもなく「イチ、ニ、サン、シ、ゴ、ロク、シチ、ハチ、クー、ジュー」と読むのが正しいであろうが、名古屋や関西地方では7は「シチ」ではなく「ヒチ」と読まれることが多い。

 私など両親が名古屋で、育ったのが大阪だから、子供の時には7は「ヒチ」とばかり思っていた。そこから質屋も「ひちや」であり、七福神は「ひちふくじん」であった。「ヒチ」は単に方言というだけではなく、「シチ」が発音し難いので、訛って「ヒチ」になったのではなかろうか。「イチ、ニ、サン、シ、ゴ、ロク、ヒチ、ハチ、クー、ジュー」である。

 「ヒチ」と言わない人たちでも、「シチ」に問題のあることには変わりなく、間違いのないように、訓読みの「ナナ」を使うのが見られる。1から10まで数えるような時にも、間違いなどを避けて正しく伝えたいようば時には、あえて「シチ」を避け、わざわざ訓読みの「ナナ」で使う場合がある。

 殊に、1から順に数えるのではなく、10から逆に減らして言う時には、ジュー、クー、ハチの次はナナ、ロク、と、「シチ」を避けて「ナナ」を使う人も多いようである。

 「ナナ」は言うまでもなく訓読みの「ひとつ、ふたつ、みっつ、よっつ、いつつ、むっつ、ななつ、やっつ、ここのつ、とお」あるいは略した「ひー、ふー、みー、よー、いー、むー、なー、やー、こー、とー」から来ているのである。

 数字は日常生活のにおける基本的な情報であり、人々の間の物の交換にも不可欠の言葉なので、不明瞭な表現を避け、相手に確実に伝えるために、「シチ」を「ナナ」と置き換えることが多くなったのであろう。 そこに「シチ」が必然的にに訛って「ヒチ」とも言われるようになり、同じ数字の七の読み方がこんがらがって来たからでもあろう。

 私など、いつもが「ヒチ」という方だから、辞書を引く時などに、ついうっかり七を「ヒチ」で引いてしまってまごつくことがあったものである。ただ、私だけでなく、そう言う人も多いと見えて、どれだったかの辞書では、七福神は「ひちふくじん」「しちふくじん」どちらからでも引けたし、Googleでは今でも両方で七福神は出てくる。ただし、私のパソコンの文字変換では「ひちふくじん」で引くと「脾血副腎」「妃血副腎」などと出てきて、七福神は出てこない。

 しかし、質屋なら恐らくどこででも「しちや」でも「ひちや」でも出て来るのではなかろうか。質屋は今では減ってしまったが、以前多かった頃には、わざわざ平仮名で「ひちや」と大書した看板を掲げた質屋もよく見たものであった。今でも質屋は「ヒチヤ」ではなかったかなと思いかけ、「質問」「本質」などの文字を思い浮かべて、「シチヤ」であることを確かめることがある。

 また日常生活でも、七年というのは「ナナネン」の方が「シチネン」よりよく使われているのではなかろうか。七転八倒、七五三、七五調、七面倒、七輪、七味などは殆ど「シチ」と呼ばれるが、七回忌、七音、七日、七七日、七変化、七回などでは時により、「シチ」とも「ナナ」とも読まれる。しかし、七草、七分搗、七色、七重、七竈などは訓読みで「ナナ」と呼ばれるのが普通である。

 日本語は難しい。日本人でも読み方一つでも、こんなにややこしいのだから、外国人にとっての日本語はそれこそ厄介なものであろう。