ゴキブリ退治

 我が家のトイレには時にゴキブリが現れる。そのためゴキブリ退治のスプレーが用意してある。見つけ次第このスプレーで退治している。

 この間の夜も、たまたまトイレの明かりをつけ、扉を開けたら、すぐ近くにゴキブリが動いているではないか。咄嗟に近くの廊下の隅に置いてあるスプレーを取り出し、ゴキブリを狙って噴出した。ゴキブリはしばらく逃げていたが、やがてひっくり返り足をバタつかせていたが、すぐに動かなくなって死んでしまった。

 スプレー液で床のあちこちが濡れたが、いつもならそれで一件落着、用を済ませて、寝室に戻り、ベッドに潜り込んでおしまいということになるところだが、この時はちょっと気になった。いつもゴキブリを見つけただけで、いきなりスプレーで殺して来たが、そのゴキブリがどんな悪さをしたというのだろうか。彼らもそれなりに生きているのである。有無を言わせず殺されなければいけないのであろうか?

 咄嗟にパレスチナガザ地区のことが頭に浮かんだ。ただ遊んでいる無辜の子供がイスラエル兵に見つけられただけで、撃たれて殺される像がゴキブリの死に様に重なって見えた。パレスチナの子供も、ゴキブリも、ただ生きて動いていただけだったのである。誰も彼らの命を奪う権利は持っていない筈である。ゴキブリでもゴキブリなりにただ生きていただけである。まして我々と同じ人間がそんなに簡単に扱われて良いものであろうか。

 ゴキブリからするとは害を与えるようなことはこれポッチもしていない。それなのにただ食べ物でも探しに、仮に平和な日常生活を営んでいただけなのに、なぜ警告もなく突然命を奪われなければならないのであろうか。人とゴキブリは違っても一度しかない生命を生きている点では同じである。

 ただ、生物の世界での弱肉強食は普通のことであり、広い意味では、それで大自然の平衡が保たれているというのも真理であろうから、仮に人のゴキブリ退治もその範疇に入るとしても、理性を得た人類が、お互いに殺し合うのは、自然の大義から言っても許されることではないであろう。