昔はアヴェックといえば、若いカップルを指すものであったが、少子高齢化で若い人が減り、今では街で見かけるアヴェックは多くが老人同士のそれである。
つい私は「年寄りのアヴェック」と言ったが、ひと頃はあれほど流行ったアヴェックと言う言葉も、今では殆ど死語になってしまっているそうである。今では、老人のカップルとでも言わないと通じないのではと言われた。
見かける老人のカップルは殆どは夫婦の様である。若い時には夫婦仲も、お互いにしっくりとは行かず、我慢し合っていた様なケースでも、長く連れ添って歳をとると、諦めもあり、お互いに依存し合い、助け合うよう様になってきて、自然と許し合い、カップルで行動することが多くなる様である。
家の近くの道路を行き交う人たちを見ても、殆どは単独行であるが、本当に年寄りの街だなあと思わざるを得ない。カートを押した前屈みの老婆の後を、杖をついた爺いがとボトボト歩き、その後ろにはまたカートの老婆、更にその後には車椅子の老人が続くといった姿が日常的によく見られる風景であるが、それらに混じって、老いのカップルを見かけることも少なくない。
どうも彼らは独り者よりいくらか若いことが多い様で、近所を散歩している途中なのか、若いほど亭主が前を進み、嫁さんが後ろからついていく傾向が強い。しかし年とともに女性の方が強くなるためか、順序が逆転している例に出くわすこともある。中には、男が女の肩に捕まり歩いている姿や、体を寄せ合ってしっかり手を繋ぎ、互いに支え合って、ようやく歩いているカップルなどもいる。車椅子を押している光景に出会うこともある。二人が共にカートを押している姿を見たこともあり、色々である。
私の場合も、以前は私の方がせっかちで足が速かったので、いつも私が先になり女房が後からついて来るのが普通であったが、90歳も過ぎると歩くのが遅くなり、最近ではこちらがいつもトライウオーカーなる歩行器を押して、女房の後を追う格好になっている。
お互いに歳をとると、眼が悪くなり、耳も聞こえ難くなるので、余計に一緒に歩かないと、言葉も通じ難いし、目や耳が悪くて道路でヨタヨタしていては危険性も増える。
時にはどちらかが歩けなくなり、車椅子を押して道を行く連れ合いも見られる。大きな男が小さな婆さんを乗せて押しているのは良いが、大きな爺さんを車椅子に乗せて小さな婆さんがそれを押しているとなると、もう虐待の様な感じさえして見ておれない。
それでも助け合いながらでもアベックで行ける間は良いとしても、遅かれ早かれいつかは一人になる。少子高齢化が進んできた古い町の通りで見られる風景は今後どうなって行くことであろうか。もう私はいないだろうが、2040年問題などと言われている頃にはどんな風景になっているのであろうか。