最低の演奏会

 兵庫芸術劇場が出来た時からその会員になっていたので、年に何回かはそこでの演奏会に出かけていた。ところが歳をとると、体も足も疲れやすく、行くのが億劫になるし、帰りが遅くなると足元もおぼつかないので、次第に足が遠のいてきてしまっていた。

 しかし定期演奏会のような大きな演奏会の他にも、西宮市のロータリークラブなどが後援して、午後に短いワンコインコンサートや、その集大成のようなドリームコンチェルトなるものもあり、気軽に安価なコンサートを聞く機会もあるので、先日は女房と久し振りにドリームコンチェルトを聴きに行った。

 手軽に行けるものだから、適当に予約をして出かけたのだが、行ってみると席が一階の一番後ろの座席になっている。うっかり座席も確かめずに予約したので行くまでわからなかった。一階席の一番後ろは舞台から遠いだけでなく、二階席の天井が張り出しているので、一番音響効果も悪い所である。

 若い時は席がどこであろうと大して変わりがなかったので、何処であろうと空いている席を適当の予約することが多かったので、ついうっかりしていたのだった。殆ど満員だったし、これまで座席によって鑑賞に問題があったこともなかったので、仕方がないかと思って、そこで聴いたが、若い時とは決定的に違うのだなあということを嫌という程体験させられることになった。

 目が悪くなっているので、眼鏡をかけていても遙かな舞台で、そこで演奏する人物の顔も楽器も、全てがボケてしまってはっきり見えない。チェロやコントラバスのような大きな楽器は見えても、バイオリンやヴィオラなどは黒い影が手を動かしていることぐらいしか判らない。指揮者や主演者の顔もボケて皆のっぺらぼうにしか見えない。

 見えないだけでなく、この席は一番後ろで天井が低いので音も聞き難い。若い時ならさして気にならなかったのであろうが、こちらの耳が聞こえ難くなったためか、高音が聞き取りにくく、音が割れて聴こえる。折角のソプラノも聞きづらかったし、期待していたマリンバの球を転がすような音の流れも楽しむことが出来ずに終わってしまい、返すがえすも残念であった。

 これまで演奏会に行くのに、こちらの聴力の衰えなど気にしたこともなかったが、この歳になると、足腰の問題だけでなく、こちらの視力や聴力の衰えも考えに入れておかねばならなかったのだなあと考えさせられた機会であった。