マベル・ポブレット展

 


 新聞で京都国際写真展の広告を見て、マベル・ポブレットというキューバ若い女性作家の作品が面白そうなので見に行って来た。まだほとんど誰も知らないであろう作家で、私にも初めての名前である。

 この写真展は、今後の活躍が期待される写真家やキュレーターの発掘と支援を目的とした公募型のアートフェスティバルのようで、その案内の中の、このキューバ若い女性の作品が、普通の写真の平面の領域を超えた立体的な造形作品のようなので、どんな構成なのか興味が湧き、一度覗いてみたいと思い出かけた。

 京都まで、それだけでわざわざ出かけるだけの値打ちがあるかなあとの思いもあったが、雨が続いた後で、天気の良い晴れ晴れとした春の朝になったので気軽に出かけた。

 会場は京都の文化博物館の別館だから、昔の京都の日本銀行の古い建物である。いつもは内部はガランとした廃墟のような所だが、展示会場となると、高い天井の広い空間をいっぱいに使って所狭しと作品が並んでいた。作品がキューバの海と水をテーマにしているので、会場は全て明るいブルーで纏めてあった。

 作品は写真というより造形と言った方がよいのではといったもの。無数ともいって良い小さな紙を折って山型にしたものを巨大な円盤状にぎっしり並べ、それも二重にして、青いペンキなどで着色して、大きな幕ようにぶら下げ、光の反射などを利用して、太陽に反射する海の漣のように見せ、それらを通してその奥に泳ぐ人体が見え隠れするような感じの作品が何点か並んでいた。

 中には、山折紙型の代わりに小さなプラスチック片のようなものを組み合わせたような作品もあり、建物などの風景が見え隠れする様なものもあった。いずれもよくも作ったなあと思われるぐらい手が混んで時間の掛かる労作であった。

 これらの他、メインは中央の円形の大きなスペースには、無数の伝票ぐらいの大きさの薄い透明なブルーのプラスチックの断片?を無数にぶら下げて、大きな円形の幟のようなものを作り上げ、それを高い天井からぶら下げた作品があり、周囲の壁は全て鏡になっている。

 その部屋に入って、壁に沿って目のすぐ前にある作品と、全面ガラス張りの壁面に映った映像の間に入り込んで、作品を鑑賞することになる。無数の青い断片が揺れ、それに光が当たり戦ぐ様は、言わば、自分が光の降り注ぐ海底から空を見上げているような感じで、キラキラ光る水と太陽の光にすっかり包まれたような感じにさせてくれる。

 とても写真の範疇には入らないユニークな、なかなか興味深い展示であった。これまで全く知らなかったキューバの若い作家のようだが、今後の彼女に発展を期待しないではおれなかった。シャネルなどがこれらの作品を後援している様であった。

 なお、ついでだが、展覧会を見終わって、そこの京都文化博物館の本館にある二〜三の食堂の一つに入って昼食を食べることにしたのだが、面白かったのは菜食主義の食堂だったのに肉丼があり、尋ねてみると大豆で作ったフェイクの肉だそうで、珍しいので注文した。

 ところが、それがなかなかよく出来ており、見かけも味も本物の肉と見紛うぐらいで、味もそこそこ肉と言っても良さそうなもので、思わぬ良い経験をさせてもらった。今後はこの様な植物性の肉を食べさせられることが多くなっていくのではなかろうか。

 こうして、楽しいキューバの海の作品と大豆の肉で、半日を有意義に過ごさせてもらった次第である。