いじわるトイレ

 ある日、いつも使っている我が家のトイレのウオッシュレットのお湯が出なくなった。バッテリー切れだろうと思って、新しい電池と取り替えて回復したので、やれやれと思っていたら、次の日にまたウオッシュレットが働かなくなった。

 その時は冷たい便座に座って我慢するよりなかったが、今度はバッテリー切れは考えられないし、どうしたものか、説明書を引っ張り出して調べなければ仕方がない。しかし、説明書は文字が小さいし、わざわざ分かり難いような説明が長々と書かれ、読むのが辛いし、表示版の電子表示は余計に読みずらい。

 これは大変だなあと思っていたら、後でトイレへ行った女房は普通に便座も暖かかったし、ウオッシュレットも普通に作動していて、いつもと変わりがないと言う。その後、家に来ていた娘も何も問題はなかったという。それなら一時的な故障で、もう治ったのかと思って、翌朝トイレに座るとやっぱり冷たいし、ウオッシュレットの湯も出ない。まるで、トイレが私にだけ意地悪をしているみたいである。

 どうなっているのだろうと思案しているうちに、説明書に、このウオッシュレットにはEco Systemがあるというようなことをちらと見たことを思い出した。節電のために、時間帯を決めて、その間だけ通電を止めているのではなかろうか。それにしても、ウオッシュレットのお湯まで止めるのであろうか、疑問も残った。

 次の朝は用心してあらかじめ便座に触ってみると、やはり冷たい。これはEco Systemが作動しているに相違ないようだ。通電していない間はウオッシュレットのお湯も出ないようになっているようである。仕方がないので、その日は一階にある別のトイレで済ませた。

 予想通り、その日も後で使った女房の時には問題はなかったそうである。まるでトイレが私にだけ意地悪しているようなものである。どうもバッテリーを交換した折に、なまじっかインストラクターブックを覗いたばかりに、どこかをいじって、Eco Systemになってしまったもののようである。

 そうと分かれば、面倒でも説明書を見て、Eco Systemとやらを直せば良いということで問題は解決したようなものだが、ふと、思いついたのは、何かの動作とでも組み合わせば、本当の「意地悪トイレ」も出来るのではないかということであった。

 例えば、トイレのドアのロックと通電を組み合わせ、ロックをしなければ通電しないようにすれば、ロックをしない癖のある人にだけは、冷たい便座で、ウオッシュレットのお湯も出ない「いじわるトイレ」が出来るのではなかろうか。ひょんなことから暇な老人はつまらぬ想像を思いついたりした次第である。