老人性難聴

 先に老眼による目の錯覚を楽しむことについて書いたが、歳をとると、聴力もてきめんに悪くなる。女房の言っている言葉ですら、聞き取りにくいことも多くなって、聞き直さなければならない。

 しかし、大事なことはしっかり聞き直してでも、確かめなけらばならないが、日常生活の中での独り言のようなものまで、いちいち聞き直していては大変なので、適当に聞き流すことになる。

 昔から老人の「かってツンボ」とよく言われてきたものだが、故意にしているのではなく、全く聞こえない訳でなく、聞き取り難いのだから、大事そうなことは聞き返すが、全てのことを聞き返すわけにもいかないので、適当に取捨選が入るので、当然都合の悪そうなことは聞き流すし、大事そうなことは聞き正すことになるので、「かってツンボ」ということになるのであろう。

 老人同士の会話となると、両者共に聞こえ方が悪くなるので、お互いに自分の言いたい事だけ喋って、相手の喋ったことは分かった所だけで適当の解釈して返事をし、後は適当に聞き流し、態度だけでお互いに打ち解けたように振る舞うことになる。

 その結果、偶然、話題の中心が合うこともあるが、多くの場合はお互いに喋りたいことを喋るだけで、相手に自分の意向が伝わらず、会話は相互に一方通行で、意思の疎通がついていないことも多い。

 難聴の方は老眼や視力の悪いのと違って、周囲の状況によって左右されることが多いし、補聴器も何十万円もするものまであるが、それでも雑音に悩まされ、メガネのように、これでピッタリというような物がないことが多いようである。

 最近はメガネ屋さんが一斉に補聴器も扱うようになって来ているが、補聴器を使うのなら耳鼻科の専門医に診て貰ってからにした方が良いようである。同じ難聴と言っても、中耳の異常などによる伝音系の異常から、内耳や中枢性の感音系の異常まで色々で、対処の仕方も違うからである。

 私の周囲でも、何十万円もする補聴器を持っているが、いつもケースに入ったままで、殆ど利用していない人が一人や二人ではない。メガネのように常時使っている人の方が少ない印象である。そういった補聴器の評判などから、私も今のところ、慌てて手に入れようとは思っていない。

 ただ聞き違えや聴き直しが多くなったことは間違いない。少し前のことになるが、テレビのコマーシャルで、ハッピを着た人が仕切りに「狭いから狭いから・・・」と歌って踊っているので、何が狭いのだろうかと思って聞き直してみると、「出前館」という宅配か何かの広告であった。「デマエカン」が「セマイカラ」と聞こえていたのであった。

 以来注意していると、結構聴き間違えることが多いようである。どう聞き違えたのかすぐに忘れてしまい、いちいち覚えていないが、ある時に意識して書き留めたものだけを拾ってみると、天気予報で「停電時」と言ったのが「成人式」と聞こえたり。「冷えている」というのが「きいている」と聞こえたりする。

 その他にも、「鎌倉」が「ナマクラ」になり、「天文学」が「音楽」に変わり、「滋賀県」が「仕分け」、「実感」が「いっかん」「太平洋沿岸」が「太平洋横断」などと聞き違えられたりする。

 歳を取れば聴力が悪くなるので、こう言った聞き間違いも仕方のないことであるが、思わぬ連想を楽しませて貰えることもあるものである。