蝉の鳴き声も簡略化か?

 夏も終わりに近づくと、蝉の鳴き声もミンミンゼミから法師蝉にかわる。毎年法師蝉が鳴き出すのは、夏祭りや大文字山の山焼き、甲子園の高校野球や花火大会などが催される頃からで、若い頃にはその鳴き声に、もう夏休みもの終わりなのに、夏のだらけた生活で何も成果が上がっていない。もうここらでしっかりしないとと、急き立てられる気分にさせられたものであった。

 同じ蝉でも「ツクツクボーシ」だけは特別な存在である。他の蝉が鳴き止む夏の終わり頃からそれを引き継ぎ、 「ツクツクボーシ・ツクツクボーシ・ホーシーツクツク」という他の蝉にはない特有の鳴き方が、人の心を揺さぶり、何か宗教的な響きさえを感じさせられるのである。

 ところが今年は何故か、法師蝉の元気がない。私の聞く範囲では、声も少ないし、勢いがない。「ツクツクボーシ・ツクツクボーシ」と鳴く蝉が少なく、たいていの蝉が「ジー・ツクツク」または「ツクツクボー」で止めてしまい、「ツクツクボーシ」まで行かないことが多い。私の勝手な思い込みに過ぎないのか知れないが、法師蝉と言われるからには、昔のように「ツクツクボーシー・ツクツクボーシ、ホーシーツクツク」と最後まで鳴いて欲しい。

 近頃は人間の世界では、何でも省略形が流行り、パーソナルコンピュータはパソコンだし、スマートフォンスマホと言われる世の中である。長い間の地下での生活を終えて、やっと地上に出てきた蝉たちもそれを知って、「ツクツクボーシ」を省略して「ツクツク」とか「ツクツクボー」と省略するようになったのだろうか。

 或いは人間共に汚染された地下での長い生活のために、もう地上に出てくるだけで精一杯

だし、地上の世界も無茶苦茶暑いので、蝉になっても、最早ツクツクボーシまで声が続かなくなったのであろうか。もう何とか「ツクツクボー」まで鳴けたら上出来ということになっているのであろうか???

 勝手に好きなように想像して、舌足らずの法師蝉の鳴き声に今年の夏の終わりを惜しんでいる次第である。