認知症の予知は可能か

 新聞の広告欄に「図解:鎌田實医師が実践している認知症にならない二十九の習慣」ーーテレビ・ラジオで大反響!8刷!」と書かれた広告が目に止まった。

 それを見てふと思ったのは、こんなことを言っても本当に大丈夫なのか?もし内藤を見たわけではないが、二十九もある習慣を全て守れるわけはないし、守れたとしてもそれで認知症にならない保養はない。著者自身が将来認知症になったらどう責任を取ろうというのだろう。

 著者は七十三歳とある。まだまだ先のことはわからない。私の知人だった医師にも何人か認知症になった人もいた。人が認知症になる正確なプロセスはまだすっかり解明されているわけではない。仮にはっきりわかったとしても、人は遺伝的に多様であるし、長年の生活環境や習慣も人によって異なっている。

 これまでの知見や経験から、ある程度認知症になりやすいかどうかを判断することは出来ても、絶対に認知症にならないといえる生活習慣があるわけではない。ましてや個人について、認知症になるかならないか、正確に予知することなどは不可能である。

 認知症の研究の第一人者で、認知症の判別基準を作られた長谷川先生が認知症になられたことは広く知られたことである。誰も現時点で、将来の認知症の可能性を予知できる人はいない。鎌田先生を非難しているわけではない。この本の元がどこにあるのかは知らないが、人の弱みに付け込んだ出版社の誇大広告なのである。先生はそれに乗せられているだけである。

 世は誇大広告の時代である。新聞や雑誌、SNSなども、健康食品やサプリメントのこれでもか、これでもかと言わんばかりの誇大広告の氾濫である。そろそろ自分の体が心配になってくる頃の初老の人々の弱みに付け込んで一儲けしようという算段である。この本の広告もまさにそれと同じである。

 広告をどのように受け取ろうが知ったことではない。強制するわけではないし、全く誤魔化そうというものでもないから、あとは誰も責任は取らない。この本で言えば、読者が記載を忠実に守って、その結果がどうなろうと、誰も責任を取ろうなどとは露ほども考えていない。表題に魅せられて購入した人の責任である。出版社の方は売れて儲かればそれで良いと言うものであろう。

 生活習慣と痴呆と関係が在るだろうことは誰しも想像できるが、今の所、こうすれば認知症に決してならないと言えるようなものはない。常識的にあまり歪んだ生活を続けるとか、睡眠剤や他の脳に直接作用するような薬の多用などが良くないだろうと言うようなことが言えるだけであろう。