北摂にアルプスあったっけ?

 十二月の最初の日曜日だった。朝9時ごろに用事があって出たついでに、少し近くを散策して戻ろうとした時、駅の方から五月山へ行こうとする団体や個人がぼつぼつやって来るのに出会した。まだ秋の名残が残っているうちに最後の紅葉を楽しもうとしているのであろう。

 ところが驚かされたのは、出会う人たちの服装である。一人残らず登山に行く服装をして、登山靴を履き、リュックを背負い、ピッケルの先をのぞかせている人までいる。揃ってアルプスへでも登るつもりの「山ガール」の格好なのである。

 つい、「どこの山に登るつもりなのだろうか?」と思ってしまう。「北摂にアルプスのような山があったっけ?」皆が行くのであろう五月山は海抜315米に過ぎない。ハイキングコースも整備されていて、小学生の遠足などによく利用されている山である。 

 五月山はいわば池田のシンボルでもあり、桜のシーズンには多くの観光客で賑わうし、秋の紅葉も美しい。山の上には愛宕神社やゴルフ場、展望台などもあり、私などは今は歳をとり坂道の下りが怖いので避けているが、以前は我が家の続きのような積もりで、よく散歩がてらに登っていたものである。もちろん普通の普段着で行っていた。

 私にとっての登山といえば、日本では中部地方立山や、槍、剣、駒ヶ岳など若い時に登った山々のことが思い出される。戦後まだ日が浅かったせいもあるが、登山靴も満足になく、地下足袋で登ったことも思い出される。リュックも横幅の広いものしかなかったし。軍用の水筒を必ず持っていったものであった。

 今は何をするにも、先ずはそのための服装を整えることから始まるようである。商業主義に乗せられて、低い山であろうと、山へ行くなら先ずは山行きの服装から整えなければならない時代らしい。

 同じようなことは他の分野でも見られる。サイクリングをするならサイクリング専用の格好、ジョッギングするならジョギングの姿。テニスならテニス。サッカーならサッカーなどと、専用の服装が決まっていて、それを外れた服装では仲間に入れたもらえない感さえある。

 格好が良くて実際に利用している人たちが喜んでいるのだからそれで良いようなものだが、私に言わせれば、オリンピックならいざ知らず、素人がそこまで服装を整える必要があるのか、SDGsなどの見地からしても、傲慢な人間たちの資源の無駄遣いに繋がる行為であり、商業主義の歪んだ文明の姿を見さされる気がして嘆かざるを得ない。