三代澤本寿の型絵染展

 

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グラゴルミサ・幻想

 染色の工芸などにはあまり興味がなかったので、二科展や国展などへ行っても、その部屋は一瞥して通り過ぎるようなことが多かった。

 それにも関わらず、今回わざわざこの方の型絵染めの展示会を見に行ったのは、新聞の紹介記事や写真を見て、まるでヨーロッパの宗教版画の

ようで、型絵染とは思えないような絵に惹かれて、実物を見てみたいと思ったからである。万博公園の中にある大阪日本民藝館でやっていたので、公園の散策も兼ねて出かけた。

 三代澤本寿、みよさわ・もとじゅと読むのだそうだが、長野県松本市の出身で、染色家として芹沢銈介の元で技法を学び、数々の優れた作品を手がけるとともに、柳宗悦を師と仰いで信州の民芸運動の普及にも多大な貢献を果たされた方だそうである。

 1960年代後半からは度々ヨーロッパや中東、中南米なども訪れ、異国の風景やクラシック音楽などもモチーフとして、多彩な魅力溢れた作品を生み出し、生き生きとした色と形に溢れた世界を表現したと言われている。

 実際に見ても、色々と大型の和紙の型絵染めの表現が多く並べられていたが、やはり写真にある本命の作品が一番魅力的であった。スラブ地域でのキリスト教の聖者を両側に配し、真ん中に九世紀後半のグラゴール文字が書かれた四曲一雙の屏風になっている。

 両聖人の光輪は雲母で輝き、文字はすべて繋がっている。また背景の細かいマチエールは染色後に落とす糊を残し、線状の傷を無数に刻み込み、石灰を混ぜた糊のざらついた質感と、ひび割れのように見える和紙の皺で出来ているそうである。

 何度振り返ってみても、型絵染とは思えない、中世の宗教的な版画を見る想いで、容易には立ち去り難かった。思わぬ拾い物をしたような感じで民芸館を辞したのであった。