鼬、鼬鼠

 鼬、鼬鼠。いずれも「イタチ」のことである。今では動物園でしか見たことがない人もおられるかも知れないが、今でも結構あちこちに住んでいるものである。

 大阪の郊外にある我が家でも、以前から時々イタチが庭をかけ抜けていくのを見たことがあった。ある時など、丁度庭に出た時に、庭の端の茂みからひょっこり顔を出したイタチと顔を合わせ、睨めっこするような格好になったことがあった。突然のことで、こちらも驚いたが、向かうも植え込みから芝生の庭に飛び出そうとした瞬間だったらしく、一瞬驚いて立ち止まり、暫しの間の沈黙の末、すぐに大急ぎで走って庭の隅の方へ行ってしまったことがあった。

 またある時は、見たと思ったら大急ぎで走って、何処からか床下へ潜ったようなこともあった。空気取りの穴からでも潜ったのであろうか。

 その後何日か経ってから、今度はどうも床下にイタチでも潜り込んだのか、床下で確かにゴソゴソ物音がするので、床下の点検口から覗いてみたが、何も見つからなかったようなこともあった。

 その後も、毎日のように見られたわけではないが、時々庭をよぎっていくイタチの姿が見られることがあった。我が家から2〜300米離れた知人の家でも、時にイタチが出ると言う話を聞いたので、我が家のあたりには、何処かにイタチの巣でもあって、何匹か生息していたのではなかろうか。最近は見ないだけで、今でも何処かにいるのかも知れない。

 そう言えば思い出したが、もう30年ばかり以前のことになる。娘が九官鳥を飼っていたが、アメリカへ行く時にそのまま置いて行ったので、引き続いて面倒を見ていた。ところがある時、いつも狭い籠の中では可哀想だと思い、居間の南の庭に設けたガラス張りのサンルームが広いので、そこで放し飼いのようにしていたら、ある朝、可哀想に九官鳥は、羽も引きちぎられて、無惨に死んでいるのが見つかった。高い所にある隙間からイタチが入り込んで殺したものとしか考えられなかった。

 そんなことも思い出したが、最近は何故か我が家を通るイタチも見なくなっていたので、イタチのことも、もうすっかり忘れていた。

 ところが2〜3日前のことである。散歩で近くにある神社を訪れた時のこと、神社の鳥居を潜ろうとしたら、すぐ横の道側をイタチが走って行くではないか。「あれイタチだ」と思わず声を出して、行き先を見届け、ふと振り返ってみると、小さな犬を連れた女性の参拝客が丁度、鳥居から出て来るところであったが、犬がイタチを見て体をこわばらしてしまって動けず、前を歩く飼い主が紐を引っ張っても、しばらく逆らってじっとしていた。恐らく初めて突然イタチに出くわして、パニックに陥ったのであろう。暫く主人に抱かれて、やっと安心したようであった。

 それから我々は神社の境内に入り、拝殿の横にある岩に腰を下ろして休憩したが、しばらくすると、神域の庭の端をイタチが走って行くではないか。先のイタチとは反対方向なので、同じイタチかどうかはわからないが、矢張りこの辺りには、今もイタチが生息しているようである。

 昔なら何と言うことはないが、広く開けた現在の住宅地の中でも、今なおイタチは隠れているが、逞しく生きているようである。

 ところで序でに、イタチといえばよく聞くのが「いたちごっこ」と言う言葉で、同じようなことをいつまでも繰り返して物事の決着がつかないような時に使われるが、イタチとどういう関係になるのか気になったので、Googleで調べてみた。

 昔、子供の遊びで、二人で、相手の手の甲をつねって、自分の手をその上に乗せ、相手がまた同じことをして、それを交互に際限もなく繰り返す遊びがあり、それを「いたちごっこ」とか「ねずみごっこ」と言ったそうで、そこから、いつまでも埒のあかないようなやりとりをそう言うようになったと書かれてあった。