五十円の楽しみ

 今時、たった五十円でひと時の楽しみが得られることなど、あまり考えられないのではなかろうか?

 それがあるのです。最近、池田の商店街にあるコンビニの店先に、一個100円のグレープフルーツが並べられているのを見つけた。グレープフルーツは昔からのお気に入りの果物なので、スーパーなどでも時々買ったことがあるが、私の常識では、大体120〜130円ぐらいのことが多く、105円などと書いてあると今日は安いなといくつも買った記憶がある。

 ただし、最近は高齢とコロナのため殆どスーパーへも行かないので、それも随分古いこととなっているが、女房の話でも最近でも、グレープフルーツはスーパーなどでも、100円などでは買えないそうである。

 コンビニの方がスーパーよりも安いこともあるのだなあと思い、見かけも皮が薄く、ジューシーそうなので、早速買って帰ったのだが、このグレープフルーツがまた本当にうまいのである。思った通り、皮が薄く、ジューシーで、味が豊かなのである。

 昔、1961年に初めてアメリカへ行った頃には、グレープフルーツはまだ日本ではあまり知られておらず、その時に初めて憶え、以来、私はグレープフルーツのファンとなり、帰国後もずっと、春先から夏にかけてはなくてはならない食後の果物になってしまったのである。

 食べ方も決まっており、ふたつに切ってハーフグレープフルーツにし、グレープフルーツ用のナイフで皮の内側を身に沿って円周状一回り切り込みを入れてから、砂糖とウィスキーをかけしばらく浸み込むのを待ってから食べることになる。

 スプーンで、切られた半身から、一袋づつ取り出して食べ、次いで、皮のお椀の中に残ったジュースをスプーンで掬って啜り、次いで、壁面に残った身を潰して、それを掬って食べるというのが私流の食べ方である。

 グレープフルーツは何と言っても、そのジューシーな汁の豊かさが命で、実を取った後の汁が大きい目のティ・スプーンで10杯、さらに周囲の身を削った後の汁が10杯と、充分にあるのが、「十、十、ジューシー」と、美味しいグレープフルーツだということになる訳である。

 買う前に如何にジューシーかを外見から見分けて買うことが必要なのである。皮が薄くてジューシーなものも、経験を積むと、ある程度は分かるものである。ジューシーなものだと、食べた後に残ったお椀状の皮を絞っても、なおスプーンに一杯や2杯の汁が得られるものである。

 ここまで、充分楽しんで食べて、これが一個100円だから、半分で僅か50円というのではたまらない。他にたったの50円でこれだけ楽しめるものがあるだろうか。大袈裟に言えば、長生きしていれば、こんな食後の楽しみにも巡り会えるというものである。