白鵬と照ノ富士

 今年の大相撲の名古屋場所は、横綱白鵬大関照ノ富士による千秋楽での、全勝力士同士の対戦で、白鵬が勝ち、45回目の優勝、16番目の全勝優勝で幕を閉じた。久しぶりで横綱大関の真剣勝負で見応えのある一番であった。

 両者とも必死の取り組みで、近頃の日本力士の取り組みには見られない気迫が感じられ、久しぶりで本当の相撲を見たような感じにさせられたが、敗れた照ノ富士も場所後の理事会で横綱審議会で横綱に昇進したのでまずはめでたしめでたしというところであろう。

 優勝した白鵬は既に36歳、右膝の故障などで6場所も続けて休場を続け、相撲協会からも球場の多さを理由に「注意」も受けていた。同じ横綱で休場を続けていた鶴竜は引退したところである。白鵬の引退も噂に登っていたが、白鵬は今年の3月に、悪い膝の手術を受け、リハビリに励んだというものの、以前のようには使えない右膝を抱えての出場であった。

 初日の明生戦では、長い間の休場によるカンの鈍っているところもあったりして、先が危ぶまれもしたが、次第にカンを取り戻し、悪い右膝をうまくカバーしてずっと勝ちっ放しを続け、とうとう全勝優勝してしまった。

 本人も言うように「まさかこの年で全勝優勝が出来るなんて場所前は思わなかった」であろうし、千秋楽では、「右膝がボロボロでいうことを効かなかった。この一番に全てをかけようと気合を入れてやりました。」と言うように必死の場所であったのであろう。

 千秋楽での対照ノ富士戦では、それまでの照の富士の相撲ぶりから見て照に富士有利と見ていたが、両者の熱戦の末白鵬が勝った。白鵬も必死だったようだ。ここまで来たら最後を全勝で飾りたかったのであろう。照ノ富士を倒した直後の、思わず出たガッツポーズがそれを表していた。

 こののガッツポーズや、強引な肘打ちのようなかち上げや張り手など、横綱相撲らしくないとの非難の声もあるようだが、私は白鵬を応援したい。相撲は個人対決の勝負である。先ずは勝つことである。横綱相撲というけれど、それは余裕のある時の話である。横綱相撲の積もりでも、負ければ誰も評価してくれない。

 本人も言うようにこの歳になってまさか全勝優勝など考えていなかったであろう。初めのうちは、出るからには過去の栄光に恥ずかしくないようなものにしたいと必死であったのであろう。

 それが思いの他うまくいって、全勝で勝ち進んだので、これなら全勝優勝も出来るかも、最後の花道にしたいと考えて、14日目の随分後ろに下がった立ち合いなども考えたのであろう。何よりも勝つことへの執念と、勝負にかけた気迫がすごかった。やはり稀に見る大横綱である。

 一方負けた照ノ富士も稀に見る、日本人力士にはあり得ないような根性を持った力士である。大関から、膝の故障や糖尿病などで、序二段まで下がり、そこからまた復活してとうとう横綱にまで上り詰めるというのは普通には考えられない偉業である。それだけの根性と努力、気迫が伴っているのであろう。普通には考えられないことである。

 白鵬照ノ富士の対戦を見ていると、ここ何場所も続いた横綱不在の大関までの取り組みの日本人力士たちの相撲が、何だか甘っちょろい遊びのような感じがして、本物の試合はこういうものだと見せつけてくれたような感じがした。

 但し、白鵬も歳だし、照ノ富士は両膝に大きな問題を抱えたままなので、今後両者がいつまで、元気な相撲を見せてくれるのか不安は消えない。