朝食は緑のテラスで

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 91歳を過ぎて脊椎管狭窄症で歩行障害が起こり、仕事を辞めたと思ったら、コロナが流行し出して、外出も思うように出来なくなってしまった。このままじっとしていたら、もう動けなくなってしまうかもとの恐怖感もあったので、足のリハビリも兼ねて、出来るだけ毎日近くを散歩するようにして来た。

 幸い、私の住んでいる池田は、山あり、川あり、平地ありで、散歩する場所には事欠かない。あちこち歩くようにしているうちに、自然といくつか決まったルートのようなものが出来上がっていくものである。中でも、猪名川の河原が近いので、上流に向かって歩いたり、下流の方へ行ったりすることが一番多いのではなかろうか。

 しかし、池田は五月山を背景にした、こじんまりと纏まった、歴史も古い町なので、その麓にも、色々な目安になる場所が多い。山へ登らなくても、五月山公園や展望台、大広寺から児童センター、植物園などが並んでいるし、茶臼山古墳五月山古墳をはじめとする古墳も散在している。少し東へ行けば、尊鉢のお寺や、梅や芭蕉水月公園もある。

 出かけるのは大抵朝のうちで、9時頃にお茶を飲んでから出かけることが多い。しかし、夏になって暑くなると、もう日中に出かけるのは無理なので、もっと朝早く、まだ涼しいうちに出かけることになる。今年も早い梅雨入り宣言をしたと思ったら、天気の良い真夏のような日が続くので、先日思い切って、朝早く出かけることにした。

 起床時間が早いので、起きた時はまだ真っ暗である。夜が明けるのを待って、朝食とコーヒーを持って、4時半過ぎに出発。まだ明け切らぬ商店街を抜け、山裾の道を通って、市民プールの前から少し上がって、植物園のある緑センターへ行った。

 まだ明け方で空気は気持ちが良いし、人は殆ど通っていないし、車も少ない。昔からよくこの明け方に出かけたので、ある時、人通りも少ないので、信号を無視して小さな通りを横切ったら、すぐ後ろにパトカーがいて「信号を守ってください」と言われたことを思い出した。

 もちろん、辿り着いた緑センターにも誰もいない。ここは市街地から少し上がった山裾にあり、緑豊かで、近くには古墳もあるが、緑センターはモダンな造りで、整備された庭や温室があり、その横が緑化についての相談センターになっている。

 そのセンターの前庭に当たる所がテラスになっており、植物が植えられ水槽が作られており、鯉が泳いでいる。テラスからは街が見下ろせる。そこに大きな陽覆いのテントがあり、その下に椅子とテーブルが備え付けられている。外で休憩するには絶好の場所である。

 テラスの近くには大きな棕櫚の木が植えられており、遠くからからこのテラスのあたりを見ると、遠くに見える赤屋根のモダンなマンションを背景に、まるでカリフォルニアのような感じのする景色なのである。

 誰もいない広いテラスを独占して、清々しい青空の下で、周囲の景色を満喫しながら、ゆっくりサンドイッチを食べ、コーヒを飲むのは、何度繰り返しても心地良いものである。若い時と違って時間もたっぷりある。心の底までリフレッシュされる感じである。

 どんなお金にも変えられない心地良さに、ついいつまでも寛いで時間を潰しているうちに、やがて山歩きの女性が一人通り過ぎて行った。それから少し間を置いて、今度は我々よりは少し若い80台ぐらいの夫婦が、我々が来た道を上ってやった来た。「いつも朝早く、誰もまだいないここへやって来て一服するのを楽しみにしているのに、今日は知らぬカップルに先を越されたか」と残念そうにしているように見えた。

 ここらが退け時かと思って、ゆっくり片付けて帰途についた。