「あぜ」と「うね」

 田舎に馴染みの少ない私でも「うね」は畑で作物を育てるために盛り上げられた長い長方形の部分を指し、畝と書き、「あぜ」とは水田などで水が貯まるように周囲を高くした田の境界となる小さな狭い土手のような部分を指すもので、漢字は畦として覚えてきた。

 ところが能勢電鉄に畦野という駅があり、「あぜの」とばかり思っていたら、「うねの」と読むことを知り、調べてみると、「うね」は畝だけでなく、畦とも書くことを知った。辞書によると、畦がむしろ最初に出てきて、次いで畝が出てくるものもある。「あぜ」は畦の他、畔とも書かれるようでもある。

 畔は湖畔などというごとく、周囲のことを指し、畦も圭は区切りを指すようで、どちらの漢字にしても、「あぜ」は田の周囲の区切りのようなもので、両方合わせて畦畔として使われることもあるようで、「くろ」とも言うそうである。畦道というように人が歩いても良いしっかりした作りでなければならないとも書いてあった。

 それでも畦が「うね」にも「あぜ」にも使われるのはどうしてか分からない。恐らく、田圃と畑が入り混じって広く使われてきたので、どこかで混同があって、同じ畦の字が両方に使われるようになったのではなかろうか。

 農業用語には縁が薄いので、時に誤って理解してしまうこともある。こんなこともあった。もう随分以前のことになるが、香川県弘法大師が作られたと言われる満濃池の「ゆる抜き」のことを聞き、ユル抜きだから、水門を少しづつ開けて水をゆっくり抜くのか、半分ぐらいだけ抜くのかと、勝手に想像していたが、「ゆる」というのは、和製漢字かも知れないが、門構の中に水と書いた、漢字まであり、水門のことを言うのであり。ゆる抜きとは水門を開けて池の水をすっかり抜くことであることを知った。「ゆる」とは木製の仕切りを揺らせながら、ゆっくり抜くところから来ているとも聞いたが、正しいことは知らない。

 田舎の住民にとっては、いつも身近にあって何でもないことも、都会育ちで、田舎の歴史や伝統に触れる機会の少なかった私には、恐らく、他にも思い違いや知らないことも多いのだろうと思っている。