世界は動いている

 今世紀の初めの9.11事件を過ぎた頃までは、アメリカが世界を支配するごとくで、国連を牛耳り、イラク戦争アフガニスタン侵攻も、一方的な論理で、アメリカの思いのままに進められてきた。アメリカはいつまでも世界の指導者であるかのようであった。

 しかし、それから20年後の現在では、表面的には依然としてアメリカの優位は変わらないが、少なくともアジアでは、中国の強国化、アジア、アフリカ諸国の発展などが進み、そこへコロナのパンデミックが起こり、世界の情勢は少しづつ動いているようである。

 中国が発展し、急速に巨大化するとともに、一帯一路で周辺諸国やアフリカなどへの進出も進み、中国を中心とする経済圏が成長していくとともに、経済的にも、軍事的にも、次第に強大化していき、中国が従来の世界の勢力バランスに変化を与えるようになったきた。

 2008年の世界を襲ったリーマンショックでも、中国経済だけが落ち込まず、発展を続け、 今回のコロナのパンデミックに際しても、早々に抑え込んで、他の世界中の国がコロナによって産業の維持、発展が抑えられ、GDPもマイナスになっているのを横目に、ひとりプラスを貫き、今や世界を二分するが如き存在にまで成長してきた。コロナ対策にしても、中国は積極的にマスクや防護服、それに自国製のワクチンを世界に広げている。

 こうして自らのヘゲモニーを脅かされそうになってきたアメリカは、何とかして、これを押さえつけ、自らの地位を繋ごうと、オーストラリアやニュージランド、日本にインドまで加えて、クワッドとして対中包囲網を考えたり、今回はG7として西欧的な価値観を振りかざし、軍事的のみならず、政治的、経済的にも、ここらで中国の発展を抑えようとかかっている。

 しかし世界は確実に動き、最早冷戦時代とは様子を異にしてしまっている。アメリカが引き続いて、世界のどこかで戦闘を繰り返しているのに対して、中国はここ40年間、戦火を開いたことがない。中国との経済的な結びつきは世界に広がり、もはや冷戦時代のように世界を二極化することは出来なくなってしまっている。

 最近のイスラエルパレスチナの争いで、イスラエルガザ地区の一般市民に対する爆撃を、国連が非難しようとしたが、アメリカだけが反対したために成立しなかった。昔ならアメリカがその力を背景に、国連を牛耳り、何かにつけて、同盟国の賛同を得て、ソ連だけが拒否権で対抗する図式が多かったが、今やアメリカ一国だけが反対の立場を取ったという事態が起こっていることに注目したい。アメリカのダブルスタンダードが露わになり、両者の事件収拾も、ロシアと中国の後ろ盾で、エジプトの仲介で行われたようである。

 またミャンマーの軍事クーデターに関しても、西側諸国は”人権”を用いた圧力で非難決議を出しているが、ミャンマーに影響力を持つ中国をはじめとする周辺諸国は、ASEANが掲げる「相互内政不干渉の原則」を堅持するため、ミャンマー情勢の迅速な収束と平穏化を願う声明を出しても、それ以上の介入は慎んでいる。経済的な結びつきから、日本も非難には躊躇している。アジアでは“人権”の指摘は、欧米諸国が用いる支配とコントロールのための口実であるという思想が広がってきているようでもある。

 かつてマハティール氏が掲げたAsian Valueの“遺産”を重ねるように、習近平国家主席が掲げるOne Asia構想、すなわち、「これまで長年にわたり、欧米諸国はアジアに対して自らの勝手な理念や価値観を押し付け、アジアを支配し、搾取してきた。その時代を今、決定的に終わらせないといけない」という内容の理念がアジアの国で次第に認識されるようになってきているようである。

 アジアの経済的な発展も顕著で、ヨーロッパをも含んだ中国のアジア銀行も出来、「一帯一路」で経済的結びつきも年々強くなってきている。長い間の欧米による植民地支配から立ち直って、アジアやアフリカの諸国が自らの発展の軌道を取り始めてきていることをも以前とは異なる。ヨーロッパ諸国も中国との貿易による相互依存が進み、最早経済的に中国との関係を断ち切れないようになっている。

 世界経済でG7が占める割合は1987年の7割から、今は4割に落ちているのに対し、中国の2020年の名目国内総生産GDP)は14.7兆ドルと米国の7割に迫ってきている。今はまだアメリカの軍事的経済的な圧力は大きいが、最早、中国を直接潰せる段階は過ぎてしまっているので、時が経てば経つ程、情勢は益々変化して行くであろうと思われる。

   アメリカがクワッドやG7などを組んで押し込めようとするのも、中国の発展に対抗しようとするものであるが、ますます巨大化していく中国を初め、アジア諸国の発展、内容の充実を圧迫窒息させるようなことは最早無理となり、やがては逆に、取り組んだクアッドやG7の方が、中国の方に経済的に取り込まれ、バラバラになってになっていくことにもなりかねないのではなかろうか。今や中国なしに、アジアのことは考えられないであろう。

 我々の日本も、経済的にも中国なしには立ち行かない。いつまでもアメリカの植民地に甘んじていないで、中国を初めとする近隣のアジア諸国を尊重し、良好な関係を築くようにして行かねば、将来アジアの孤児となりかねないことを知るべきである。