陰謀と陰謀論

 アメリカでトランプ大統領が選挙の不正を訴え、支持者が議会を一時占拠するような事件まで起こり、最近また陰謀や陰謀論についての話がいろいろ出ている。

 政治に陰謀はつきもので、昔から何処にでも見られる権力争いに絡んだものが多いが、陰謀というだけに、何処までが事実で、何処までがデッチあげられたデマなのかは、時が経つまで分からないことが多いし、時代が変わっても、いつまでも真実だったのかどうかさえ分からないままのものも多い。

 私などが政治的な陰謀と聞くと、先ず思い出すのは、戦前の日本の中国侵略に関して行われた、数々の日本の陰謀や、戦後のアメリカの戦争に絡んだ陰謀のことである。 戦前の日本の中国への侵略に絡んでは、関東軍はしばしば陰謀を巧んで、それを侵略の口実に利用したものであった。

 1928年の東北部へ帰った来た張作霖を狙った爆殺事件は、国内ではもっぱら「某重大事件」などと報道されて、真相が隠されていたが、戦後になって真相が明らかになったし、満州事変のきっかけとなった柳条湖事件は、明らかに日本軍による鉄道爆破であったのである。

 また、この頃に国外では「田中上奏文」という偽書が中国や欧米で拡散し、日本の侵略行為に対する非難に使われたことも歴史上有名である。敵も味方もあちこちで、陰謀が渦巻いていたのであろう。

 これらのことは、まだ私が子供の戦前のことなので、当時に聞きかじっていた知識を、後で埋め合わせったようなものが多い。当時、日独伊三国同盟が結ばれていたので、そのためか、ユダヤ人が影で世界征服を目論んでいるというような話が流布されており、「シオン賢者の議定書」という陸軍軍人の四王天延孝が訳した偽書も出回っていたそうだし、フリーメイソン展というのがあって、私も見に行ったことを覚えているが、あまりにもかけ離れた怪しい世界で、何処まで本当なのだろうかと疑問に思ったものであった。

 戦後は戦後で、また別な日本離れした事件に出くわすこととなった。まだ占領下の日本では、戦後の民主主義とともに、労働者の組合活動が盛んになった頃、およそ日本離れした三鷹事件や下村事件などがその頃にだけ起こり、結論がどうなったのか知らないが、どう見ても占領軍による陰謀ないし、謀略の匂いがしてならない事件であった。

 そのうちに、今度はベトナム戦争で、トンキン湾事件というのがあり、アメリカ軍がベトナムの海軍に攻撃されたとかで、それを契機にアメリカ軍の北ベトナム爆撃が始まったが、これは後から明らかに米国の北ベトナム攻撃の口実のためのでっち上げであることがわかっている。

 またイラク戦争の口実になった、核開発問題はすぐにでっち上げだということが明らかになってしまったが、それにもかかわらず、戦争が始まってしまった。どうも、アメリカは戦争を始める時には、陰謀をめぐらして口実にすることが多いようで、古くは米西戦争の時も、キューバで266名の犠牲者を出してまで、自国の戦艦メイン号を爆破し、それを口実にして戦争を開始して、スペインを破り、キューバ、フイリピン、グアム、プエルトリコなどを手に入れたと言われるが、これはアメリカでも認められている歴史上の事実である。

 そうなると、ひょっとすれば、9.11.事件もあまり良く出来過ぎているので、アメリカならば、自作自演の陰謀であったかも知れないという疑問も湧いてくる。事件直後には陰謀説も話されており、幾ら何でもとも思うが、否定はし切れない。

 現在のコロナ感染についても、始まりが、アメリカの組織に属するアメリカ帰りの中国人研究者が、密かに研究所からウイルスを持ち出したのだというような話もまことしやかに囁かれていた。

 SSNの発達などによって、悪意のフェイクニュースも拡がりやすいので、ニュースの判断には慎重でなければならないが、世界に緊張が高まると、実際にもそれに乗った陰謀なども広まるであろうから、これからも情報の解釈にはよほど慎重にしなければならないと思う。