ITファシズム

 ネット上で、厚生労働省の課長による、マイナンバーを健康保険証に置き換える構想についての説明を聞いた。政府のIT推進事業により、近い将来、今の健康保険証や老人の後期高齢者医療保険者証などはすべてマイナンバーカードに置き換えられ、それを一元的に管理し、運用しようというものである。

 この健康保険証などのマイナンバー化が完成すると、レセプトがマイナンバーで全国統一化されるので、マイナンバーさえわかれば、どこで受診しても、その人の既往歴や家族歴を始め、これまでの受診歴から、これまでの病状、薬歴に至るまで、すべてが含まれているので、医師にとっても極めて役に立つデータを簡単に入手することが出来るようになるようである。

 その上、どこの医療機関でもデータを共有できるので、他院への紹介などにも使えるし、レセプトの処理なども簡潔に出来るようになる。また、収集された病歴は医学的な統計にも役立ち、病気の疫学だけにとどまらず、薬剤の効果判定や病気の予後など、臨床疫学的な利用にも大いに役立つことになるであろう。もちろん個人情報は保護された上での話である。

 しかし、マイナンバーカードの医療への利用はそのシステムのほんの一部に過ぎない。医療以外の膨大なデータが入力されることにより、個人の私的な情報を含む膨大なデータが一元的に管理されることになるのである。

 マイナンバーカードは折角作られたのに、国民の評判が悪く、今のところ未だあまり利用されていないが、政府はIT庁などを作り、これを大々的に普及させ、車の免許証や、税金や銀行預金、その他の政府などへの書類の整理など、すべての個人識別をこのマイナンバーカード一本に絞り、コンピュータであらゆるデータを一元的に管理して、事務管理の能率化とともに、国民の広範なデータを管理しようとしていきたいようである。

 もちろん個人情報は厳重に保護されることになるであろうから、誰しも入力された他人の個人情報が勝手に見られたり、利用されたりする恐れはないであろうが、集められた膨大な個人情報は、時の政府なり権力者によっては、自由に見られ利用もされることになることは間違いないであろう。

 コンピュータの性能が良くなり、今でも何万人かの群衆の映像の中から個人を同定できるぐらいだから、量子コンピュータなどが発展し、今より更に高速処理が出来るようになれば、入力されているデータの利用は如何に複雑なものであろうとも、いとも簡単に解析出来、データは如何様にでも利用可能となるであろう。

 データの横からの利用が如何に厳重にコントロールされても、そのデータを支配下に置く時の政府や権力者によっては、そのデータの利用は必ず利用されるものと考えなければならないであろう。折角の膨大なデータを政治に利用しない筈がない。コンピュータによる人民支配である。ITファシズムの始まりであろう。

 中国では、既ににコンピュータに入ったデータから、個人のクラス分けが行われているそうで、興味深く思ったのは、親の家を訪ねる回数もそのクラス分けの基準の一つとなっているそうである。その人の儒教に従った倫理的な生活規範までが社会的な信用の基準に利用されているとかである。詳細は知らないが、その隠れた支配の恐れにびっくりするとともに、いつの日にか似た様なことが身近にも起こって来るのではないかと気になる。

 コンピュータは必ずもっともっと発展するであろうから、遅かれ早かれ、国民の身体状況、生活、行動などから思考、政治志向、性癖まで、あらゆる個人情報がデータベースに入り、時の政府の好きなように利用され、個人が選別管理されることになる日が来るのではなかろうか。