年とともに酷くなる酷暑もようやく終わり、蝉時雨に続いて虫の声も消え、中秋の名月も過ぎ、心地よい秋風が吹くと思ったら、それもつかの間、季節はたちまち秋を通り越して、肌寒い冬の気配が近づいて来る。
私もいつの間にか卒寿も超えてしまった。長く生きたものである。それでも、永久に続くであろう自然の中ではほんの束の間の時間に過ぎない。あとは永遠の死が待っているだけである。その儚い人生の最後の路程でたまたま出逢ったもの、力もない、見向きもされない、風化して擦り切れ、見捨てられた路傍の石や壁や道標など。それらがそっと語りかけてくれるのである。
それらを撮り、自分になじむように切り取り、多少加工したものがこれらの写真である。ともに生き、ともに時代を共有し、またともに消えていく儚い仲間たちのある瞬間の記録である。
今回はその一部で、猪名川の堤の上を散歩した折に見かけた、道の脇の低い擁壁に貼られた古い化粧タイルのストーリーである。もう経年変化を起こし、汚れたり傷んだりして、誰にも見向きもされない、傷んだタイルの擁壁がそーっと語りかけてくれたものである。