新型コロナ時代の老医師

 新型コロナ(Covid19)のパンデミックで、今年の世界は大変なことになってしまっている。流行は世界中に広がっているが、日本でも全国的に広がり、未だ特別措置法で、Stay Home, Sosial Distancingを守り、三密を避けるように言われている。劇場や集会施設だけでなく、多くの商店も閉鎖されている。仕事もテレワークが多くなり、種々の会合や社会的な集まりも中止や延期に追いやられ、経済や社会生活への影響が心配されている。

 感染者の増加で医療崩壊も心配され、介護施設など身体的に寄り添うねばならないような所での感染なども深刻な問題とされている。 医療の現場では、感染防護の設備や器具の不足、病床のやりくり、重症病棟やその設備の整備、人員の確保、コロナ以外の他疾患の医療へのしわ寄せなど、病院や他の医療関係者は大変な混乱を強いられている。そんな中で諸外国では医学生や退職した医師の動員によって人員の不足を補ったりしているようである。

 私も92歳の老人ではあるが、まだ医師である。今は最早満足には歩けない老体であるが、頭はまだしっかりしていると思っている。当然、新型コロナのような病気が流行れば黙って見てはおれない。新聞やテレビの情報には目が行くし、最近はインターネットでいろいろな情報が嫌でも入ってくるので、時間があれば読んで参考にしたいと思ったりもしている。

 新しい感染症なので、このウイルスの特徴や病気の特徴、潜伏期、症状や経過、検査所見、合併症や危険因子、胸部のCT所見、治療法などいろいろな情報を学んだし、世界の感染状態、死亡率などもわかってきた。しかし、どうにも歯がゆく思ったのはPCR検査についてだった。初めから韓国並みに最大限すべきだと思っていたが、なぜか日本ではこの検査がなかなか広がらないのか不思議でならなかった。どうも政治的な思惑が絡んできたようで、政府の対応の余にもの遅さと不味さにイライラさせられて来た。

 医師不足の現状をもあることだし、何か手助け出来ることでもないかとも思うが、最早、現役を離れて長いので、医学知識も古いし、体も若い時のようには動けない。手伝いに行ったとしても、返って足手纏い、邪魔になるぐらいで、何の助けにもならないであろう。ドイツあたりでも、退職した医師に手伝って貰うのは良いが、医学知識は古いし、体力がないので、あまり助けにならないというような記事も出ていた。

 それならば、もうむしろ、邪魔になるようなことは考えないで、出来るだけ大人しく家にいて、少なくともこちらが感染してお世話になるようなことだけは避けなければと思うばかりである。

 この2月には、脊椎管狭窄症で、もう一度病院へ行こうかと思っていたところにコロナが流行りだして、病院は一番感染しやすい所だと思い、受診を中止したのだった。考えてみたら、それ以来電車に一度も載っていない。散髪へももう2ヶ月以上行っていない。このところ殆どずっと家に蟄居しているようなものである。

 ただ体も適当に動かしてやらねばならないと思い、毎朝ラジオ体操と自分なりのストレッチ運動をし、一日一回は、1時間ぐらい、マスクをつけて、人の少ない河原の散歩などをしている。帰れば必ず手洗いやうがいもしてるし、機会があれば知人にも手洗いなど予防法については説明したりもしている。

 そのような状態で、人に迷惑だけはかけないようにして、今は静かに流行が収まるのを待つのが最善の策であろうと思っている。ただ、しばらく友人や同僚を含め、誰にも会っていないので、いつか流行が収まって再開出来るようになり、この間のことなどを話し合える日が来るのを待ち遠しく思っている。