自宅に蟄居した冬

 昨年の10月半ば頃から脊椎管狭窄症で歩きにくくなり、初めのうちはしばらく歩くと、右足が痛くなり立ち止まらなければいけなかったが、少し休むとまた歩けたので、杖をついて、まだ大阪までも出かけていた。ところが、今年になると、じっとしていても、右足の痛く痺れた感じが強くなって来て、普通に歩ける距離も短くなって、家から駅までどころか、電信柱毎に立ち止まって休まなければならなくなり、どうにも歩けなくなって仕事の約束まで断らなければならなくなってしまった。

 それでも何とか歩けなくてはと思い、色々脊椎管狭窄症に良さそうな体の動かし方や運動などを工夫したり、庭を周遊しては歩く練習をしたり、杖をダブルステッキにして歩いてみたりした挙句に、最近はシルバーカーを買い、それを押して歩いてみたりと、色々試みている。 

 手術という手もあるかも知れないが、この病気の人のこれまでの経験では、手術でうまくいかないケースも多いようだし、年齢のことも考えると気が進まない。それでも、もう一度は診察を受けて、意見も聞かせて貰おうかとも思い、病院の予約をしたが、いつかけても電話が繋がらない。足が悪いので直接行くのも大変だと思ってそのままになっていた。

 そうしたところへ、今年は2月から急にコロナビールス肺炎の騒ぎである。もう病院へ行くどころではない。病院の外来などは一番感染を受けやすい場所である。この上、コロナビールスまで貰ってはたまったものではない。日本国中が大変なことになってしまっている。学校も劇場も美術館も皆閉鎖され、大相撲は観客なしで春場所が行われているし、高校の選抜野球は中止になった。プロ野球やサッカーもシーズンの開幕を遅らせたようである。大勢の人が集まる所は殆どが閉鎖されてしまい、色々な会合も次々に中止になっている。何時も賑わう繁華街もガラガラ、あれほど多かった海外からの観光客もすっかり姿を消してしまった。

 そのために観光業や運輸業ばかりでなく、製造業も部品の調達ができず、人の交流が出来なくては仕事も進まず、大企業がうまく回らなければ、中層企業への皺寄せはもっとひどく、さらには個人経営者や非正規労働者フリーランスの人たちは生活の基盤さえ危うくなり、株価の急落でもわかるように、経済の先行きさえ危うくなって来ている。

 今年は三月初めに由布院へ行くことにしていたのを足が悪いためにキャンセルしたところだったが、今度はコロナのために、我が家が冬の予定にしていた音楽会や歌舞伎も全て中止になってしまった。医師会の勉強会や会合も取りやめになったので、結果として、この冬は何処へも行かずに自宅でずっと蟄居することになってしまった。足が悪くて、丁度良かったのか、悪かったのか。毎月欠かさず行っていた箕面の滝行きも、一月はダブルステッキで途中の休憩所まで何とか行ったが、二月にはとうとう行けなかった。

 思うように歩けないほど辛いことはない。足が悪くなると、どこもかしこも遠くなってしまう。家から駅まで4〜500米ぐらいなので、以前はそんな距離を気にしたこともなかったが、間欠性跛行で杖をついての歩行では、痛くなった足を休ませる毎に、目的地が未だあんなに遠いのか思わざるを得なくな理、容易に辿り着けないのが情けない。

 幸か不幸か、脊椎管狭窄症とコロナビールス肺炎(COVID19)が重なって、今年の冬は殆ど遠出せず、寒い間ずっと自宅でおとなしくしていたことになったが、新兵器のシルバーカーを押して歩いてみると、案外休まなくてもこれまでよりは長距離歩けるので、なるべく練習して、暖かくなれば、もう一度箕面の滝にも挑戦してみたいと思っている。