杖のつき方

「転ばぬ先の杖」というが、杖を持っていたら転ばないわけではない。杖をついていながら転倒したことが4回もある。

 以前にも書いたが、まだ現役の時、ふくらはぎの肉離れを起こして一週間ぐらい杖が必要だったことがあり、その時求めた杖を大事に置いていたので、歳を取ってから、またそれを使うようになった。

 杖があると、急な坂道を上がる時など確かに便利だし、杖でリズムをとって歩くと気持ちよく速く歩けることもあって、85歳過ぎた頃から愛用している。仕事や会合などで街へ行く時には持っていかないが、どこかへ旅行したり、散歩したり、少し長歩きするような時にはもっぱら利用することにしている。

 ところが、杖を持っていても、転ぶ時には転ぶものである。杖をつきながら、初めて転んだのはまだ85歳頃であったろうか。今よりまだ元気で、よく歩いていたが、杖で調子をとって機嫌良く歩いていた時、道路を横切る暗渠の端が道端に口を開いており、それにに気付かず、そこに杖の先がすっぽりとはまり、杖を持っていたばかりに、前方へつんのめって転倒したことがあった。

 2回目は一年ぐらい前のことであろうか。杖を持って少し離れた場所にある画廊へ行く途中のことであった。交差点で信号が変わりそうだったので、少しショートカットして渡ろうとして、横の駐車場の敷地内に入り込み、そこにあった車止めのコンクリートのバーに足を取られて、ものの見事にひっくり返ったことがあった。信号に気を取られて足元を見ていなかったからである。

 この二回は不運だったということで説明も出来ようが、そのあとの二回は何でもないような僅かな段差につまずいて、前方へばったり倒れ込んで手のひらや肘などに傷を作ってしまったものである。

 原因の一つはバリラックスの遠近両用のメガネをかけていると、あまり自覚していないが、ちょうど足元あたりの像がぼやけるので、段差がはっきりしなかったことや、疲れると足先が上がりにくくなっていること、それに歳とともにバランス感覚が鈍くなっていることなどが関係しているのであろうか。

 それにしてもそういう時に、杖はあまり役に立たないようである。杖の持ち方に問題があるのであろうか。杖を体の前でついて、ゆっくり歩けば、前方への転倒は予防出来そうなものだが、どうもこれまでの私のやり方は、杖を体の横について、然も足速に歩くので、杖が前方の備えになっていないので、転倒防止に役立っていないのであろうか。

 杖を使うなら、体の前で杖をついて、もっとゆっくり歩くようにしなければ体の支に役立たないのではなかろうか。杖は体の横ではなく、前につくべきもので、杖を体の横について調子をとって早足に歩くようなことは避けるべきなようである。

 杖をつくなら、体の前でつくようにして、老人らしく、少し前かがみに、ゆっくり歩くのが杖つきのマナーのようである。