あいちトリエンナーレ2019

 あいちトリエンナーレ2019の一環として「表現の不自由展、その後」と題した展覧会がが8月1日から名古屋の愛知県美術館で始まった。

 政治色が強いなどの批判を受けて、かつて美術館から撤去されたり、公開中止になったりした作品を集めたもので、美術評論家や編集者ら有志でつくる実行委員会が2015年に企画し、東京都内のギャラリーで開いた展覧会を受け、今回は「その後」として、15年以降に規制された作品を加えたものだそうである。

 これには、かって新聞紙上でも問題になった、さいたま市の公民館だよりに掲載を拒否された俳句「梅雨空に『九条守れ』の女性デモ」や、十四年に政治家の靖国神社参拝に対する批判の文書などを貼り、撤去や手直しを求められた造形作家中垣克久さんの作品や、十七年に美術家岡本光博さんが沖縄の米軍機墜落を題材に描き、住民の反発で一時公開中止となった風刺画「落米(らくべい)のおそれあり」などがあるようである。

 そしてこれらともに、旧日本軍の慰安婦を象徴する「平和の少女像」なども並べられたそうである。この少女像は韓国の彫刻家キム・ソギョンさんと夫のキム・ウンソンさんの共同制作で、十二年に東京都美術館で展示されたが、来館者の指摘をきっかけに撤去されたが、二人は「日本をおとしめる意味はなく、平和の象徴として作った。政治と芸術は切り離せない。直接見て、意味を感じて」と話していた由である。

 展覧会の意図は 美術界で近年、政治性などを理由に作品の撤去、改変が度々起きているので、それらの経緯の解説と併せて展示し、来場者に「表現の自由」を問いかけるというものだそうである。

 ところが案の定というべきか、名古屋市の河村市長が訪れ、「日本国民の心を踏みにじる行為で、行政の立場を超えた展示が行われている」とし主催者である愛知県の大村知事に対して、展示中止を含めた適切な対応を求める抗議文を提出したそうである。

 菅官房長官も、この芸術祭が文化庁の助成事業であるので、補助金交付には適切に対応したいと言っている。このトリエンナーレの芸術監督である津田大介は記者会見で、抗議電話も殺到しており、「内容の変更も含めた対処を考えている」と述べたが、結局、展示は3日で打ち切られてしまったそうである。

 何れにしても初めの表題からして「表現の不自由展」と銘打った展覧会なのである。開催を決定した以上、その内容にケチをつけたり、変更を敷いたりするのは、それこそ表現の自由を侵すものである。もっと広い心で自由な表現を許し、来場者に判断させるのが展覧会の主催者の取るべき態度ではなかろうか。

 非難や嫌がらせの電話などが多く、その対応が大変だというのが中止の理由というが、開催を決めた以上は、非難や妨害に対処して毅然として開催を続けるのが主催者の愛知県が取るべき態度ではなかったのではなかろうか。これを機会に今後の開催の自由が奪われかねないのが恐ろしい。

 表現の自由を保障して作者の自由な発想を展開させられないなら、この国のアートの発展は望めない。今後日本が経済大国よりも、文化や芸術の大国として発展していくことを望むならば、国や自治体は心を広くして自由な発想が花咲けるような施策が不可欠であることを理解すべきである。