”戦死者が死因トップの時をふと”

 表題は神奈川県の和泉まさ江さんの「朝日川柳」に載っていた川柳である。戦争を経験した私も「ふと」戦争当時のことが思い出されることが多い。

 参議院選挙で、あちこちで街頭演説が行われていたが、新聞によると「15日に札幌市であった安倍首相の街頭演説で、演説中に「安倍やめろ、帰れ」とヤジを飛ばした一人の男性を北海道警の制服、私服の警官5、6人が取り囲んで、服や体を掴んで数十米後方へ移動させ、「増税反対」と叫んだ他の女性一人も同様に警官5、6人に取り囲まれ、腕を掴まれて後方へ移動させられた。」ようである。

 道警は「トラブル防止と、公職選挙法の『選挙の自由妨害』違反になる恐れがある事案について、警察官が声掛けした」と説明しているが、SNSの映像を見ても、警察官は声掛けすることなく取り押さえていた。

 演説妨害については「聴衆が演説を聞き取ることを不可能、または困難ならしめるような行為」というのが最高裁の判断であるが、野次ったのは一人であるし、暴れたり、マイクで大音響を立てたりしたわけでもなく、演説もそのまま続けられていたので、どう見ても演説妨害とは言えず、単に普通によくあるヤジに過ぎなかったとしか言えないであろう。

 刑法学者によると、むしろ警官の行為に「刑法の特別公務員職権乱用罪に当たる可能性もある。」ということらしい。

 おそらく首相の街頭演説ということで、過剰気味の警備体制が敷かれていたのであろうし、必要以上の首相などに対する”忖度”も働いたのであろうが、こういうことは絶対に許してはいけないことである。警官の行為は一般の市民に見せしめて、脅しをかける効果があり、国民の自由な発言を抑圧するものであり、こういうことが言論の自由の抑圧、独裁政治への始まりになることは戦前の歴史が教えてくれたことである。

 演説に対して反論さえ許されないのは、まさにファシズムの世の中であることについては、神経質になって反対しよう。もう二度とあの軍国主義で、忠君愛国を無理やり叫ばされた暗い戦前の世の中、無数の殺戮、無数の戦死者、戦病死者、それに続く戦災、国中の焼け野が原、栄養失調、飢餓による死、原爆、敗戦、闇市、浮浪児、傷痍軍人、娼婦、占領軍等々 が日常に見られたこの国を、絶対に繰り返してはならない。

 独裁政治も戦争も急に始まるものではない。その始まりが些細な言論の自由の崩壊、民主主義の消退から始まるのを見てきた者には、このような国家権力の横暴は些細なことでも決して見逃してはならないと思う。無作為の作為にならぬよう皆で声をあげよう。