変わる日本語

 最近流行っているカタカナ語については以前にも触れたが、その後も毎日のようにSNSだけでなく、新聞やテレビなどまで、何かの短縮形のような短いカタカナ語が次々と出てくる。

 それらは英語などの外来語由来や、それと日本語とのちゃんぽんになった造語などを端折って作ったカタカナ語なので、突然言われても、由来が分からなければ何のことか理解不能のことが多い。

 おそらく、SNSなどによる文字情報のやり取りから、出来るだけ入力の手間を軽減するために、漢字が避けられ、かな文字が優先され、短縮形が用いられるようになったことに関係があるのであろう。

 しかし、始終利用している人にとっては符牒のようなものなので、それでも十分伝わっているのであろうが、初めて出くわした部外者にとっては、何のことかさっぱりわからないことが多い。

「バズる」とか「ディスる」と言われても意味不明である。「バズる」とはSNSなどで、何かの話題が短期間に爆発的に広がることを言うそうだが、英語のbuzzから来ているようである。buzz には「噂話などでガヤガヤ騒ぐ」といった意味合いの用法がある。

 「ディスる」の方はdisrespectから来ているらしく、相手を否定する、または侮辱することなどを意味する表現だそうである。こういう説明を聞けば分かるが、いきなり言われても老人などには分かる筈がない。

 ただ多くのカタカナ語は日本語化した外来語を短くしたものが多いので、その積もりで見れば、容易に想像できることが多い。

 フリマ、フリペはフリーマーケット、フリーペーパーとすぐ分かるし、ゲーセン、パソゲー、スポクラ、ネカフェ、クレカ、ロリコンタワレコドラレコなども同様である。(順に、ゲームセンター、パソコン・ゲーム、スポーツクラブ、ネットカフェ、クレジットカード、ロリータ・コンプレックスタワーレコード、ドライブ・レコード)

 しかし、聴き慣れていないもので、すぐには分かり難いものもある。ラノベロンバケ、ワンピはそれぞれライト・ノーベル、ロング・バケーション、ワンピースのことである。少し特殊なところでは、トレステはtrade stationのことで、ハイデフはhigh definitionのことだとわかる。

 更には、日本語とちゃんぽんになった言葉の短縮形もあるので注意が必要である。オワコン、レンチン、サラメシ、コミュ力は 終わったコンテンツ、レンジでチン、サラリーマンのメシ、コミュニケーション力の略である。

 もっと難しいものもある。「ヒュッげな」とか「キッチュな」と書いてあっても分からない。前者はデンマーク語 のHyggeから来ているもので「気持ちの良い、快適な」といった感じの言葉のようで、後者はドイツ語のkitsch由来で、「俗悪なとか、まがい物」といった意味である。

 最近では、ますますこのようなカタカナ語が日本語の中に取り込まれて使われるようになってきている。漢字の略語なら表意文字なので構成している語からある程度どのようなものかを想像することも出来るが、表音文字では単語として知らなければ想像もし難い。外国人が日本語を学ぶ時に一番難しいのは漢字ではなく、カタカナ日本語だというのもよくわかる気がする。

 これらの現在流行中のカタカナ語も時代とともに消えていってしまうものも多いであろうが、日本語の大きな変化の趨勢は変わらず、このようなカタカナ語混じりの日本語も次第にが定着していくのではなかろうか。

 明治時代に英語が入ってきた時には、それを日本語に翻訳した言葉を作ることが多かったが、最近は翻訳せずに、カタカナに置き換えて、そのまま日本語として使うのが主流になり、従来から日本語である言葉までが英語からのカタカナ語で使われることすらあり、カタカナ英語は次第に日本語の中に深く広く定着していきつつあるようである。

 もう50年〜100年先には日本語はどのようになっているであろうか。我々がもはや江戸時代の大衆本の続けて書かれた変態かなの文字が読めないように、現在の漢字混じりの日本語の本は読めないのが普通の時代になっているかも知れない。