離島の運命

 奄美大島へ行った時に観光と同時に考えさせられたことを書いておきたい。

 奄美大島佐渡島に次いで大きい離島である。都会に人口が集中する現在の趨勢では、離島は地続きの地方以上に衰退が進みがちである。御多分に洩れず、奄美大島も一時は人口が20万人を超えていたが、今や11万人と半減しているそうである。

 大島紬などの伝統産業は残っていても、大きな産業はないし、工場などの誘致も交通や物流の便を考えれば難しい。職場が少なく、大学もなければ、高校を出た若者は殆どが島を出てしまうことになる。益々発展から取り残される結果となる。

 奄美大島は古くは琉球王朝に支配されていた時代もあり、戦後はまた長い間アメリカの統治下にあったこともあるし、西郷隆盛流罪にされていたことや、隣の喜界島の僧俊寛の話からも分かるように、歴史的にも本土の人たちからは島流しの場所のような本土とは遠く離れた域外の土地の扱いを受けてきており、尚更の感がある。

 こういう所に対しては、政府の手当ても遅まきになる。住民の福祉のためより、国全体を考えた地政学的判断などの方が常に優先されることになる。そのおこぼれで住民が福祉にありつけるという結果になることが多い。

 沖縄についても同様なことが言えるが、アメリカとの関係がそれ違法に強いので、現在のような悲惨な状況が続いているのであろう。

 それはともかく、入り組んだ海と山に囲まれて僅かな平地に人が住んでいるので、島内の交通も不便である。島内の連絡も、昔は船で結ぶか、山越えで結ぶかしかなかったのであろう。今でこそ、多くのトンネルが掘られ、昔ならヘアピンカーブを上り下りして30分以上もかかった所が、今は数分で通り抜けられるようになっているが、これらのトンネルが作られたのが、全て平成になってからと聞いて驚いた。

 本州では、高度成長の昭和の時代に、主な幹線道路のトンネル工事などは殆ど済んでいたのに、ここは後回しになったのであろう。確かに人口や利用頻度などを考えれば、後回しになった理由も分からないわけではないが、島の住民から見れば本土の人たちより長い間不便な生活を強いられたということになる。

 平成になって島の道路などが整備されるようになったのも、単に順番が回ってきたというだけのことではなさそうである。地政学的に政府の方針が変わったことも関係があるように思われる。

 戦後、長らくは日本の仮想敵国はロシアであり、自衛隊は主に北海道に配備されていたが、平成になる頃から中国の台頭とともに、仮想敵国が変わり、自衛隊の配備が急速に北街道から南西諸島に置き換えられて行ったことに関係しているのではなかろうか。

 奄美大島では海を埋め立てて新しい空港が出来、近くの山には自衛隊のレーダー基地が作られている。その上、近く自衛隊の駐屯地も出来るようで、約六百人の自衛隊員が配置されることになっているそうである。

 島の人が「六百人と言っても家族を入れれば2千人位になるでしょうから、せいぜいお金を落としてくれて島の経済に貢献してくれれば」と期待していたのが印象的であった。

 そう言っていたら旅行が終わって大阪へ帰ったあくる日、テレビを見ていたら、早くも夜間に、自衛隊の大型トラックなどが20〜30台も陸揚げされて、走って行く様子が映し出されていた。

 沖縄の問題にも似ているが、自衛隊に基地建設で今問題になっている石垣島宮古島などでも、自衛隊の基地が出来たからと言って島民を守ってくれるわけではない。外国にまで届くミサイル基地ができるのだから、いつ、どこからかの攻撃の標的にされる恐れも出来るわけであり、自衛隊基地の建設には反対だが、島の経済にとっては少しでも潤うので歓迎だという、両面があることがわかる。

 基地建設などによる直接の利益につながる一部の人たちはそれを喜び、それに着け込んだ本土からの交付金なども絡んで中央と結び、何とか住民の平和な生活を守りたいとする素朴な願望からの反対を押さえ込もうとする図式化が進められることになるのであろう。

 また、奄美大島は沖縄に近いこともあり、今でも戦争の名残も僅かであろうが残っている。意識的に探したわけではないが、観光で訪れて海岸に旧海軍弾薬庫跡という看板が立っており、そこの山手に大規模に山を削った弾薬庫の跡今尚残っていたし、地図上には島の最南端には「海軍特攻隊の碑」と書かれた所も見られた。過去を知る人は今回の再軍備をどう思うであろうか。

 こうして、本土主体の政治は離島の住民の素直な気持ちなどは無視して、派手な観光宣伝の陰に隠れて、戦争中と同じように再び、離島は本土の都合によって単なる手段として利用され、島民はそのおこぼれで我慢しろというのが島の運命なのであろうか。

 自衛隊は国家権力を守るものであり住民を守るものでないことは沖縄戦で住民が身を以て感じさせられたことであったことを忘れてはならない。