日本へそ公園

 いつの頃からか、兵庫県西脇市が「日本のへそ」とか言われ、磯崎新の設計した美術館や宇宙科学館のようなものが出来たということを写真で知り、以前から機会があったら一度行ってみたいと思っていたが、車を持たない者にとっては、交通の便が悪いので、そのままになり、殆ど忘れられていた。

 しかし、最近、以前から行きたいと思いながら行っていない所をチェックしてみた機会に思い出して、先日、女房と一緒に行ってきた。どのように行こうかと少し迷ったが、結局、JR川西池田から福知山線で谷川駅へ出、加古川線に乗り換えて、「日本へそ公園駅」へ行った。

 谷川と西脇の間は全く過疎地の電車となり、私の乗って行った電車が9時半頃その「へそ公園駅」に着いた後、次の電車は12時半しかないという惨状である。これでは時間を持て余すのではないかと心配したが、結果はなんとか充実した内容となって助かった。

 その「日本へそ公園駅」という、小さな小さなと繰り返さなければならないような、ホーム一本と出入り口の門構えだけの駅を出た所がもう日本へそ公園の中で、すぐ前に「岡の山美術館」という美術館が建っている。大型の連結列車のような細長い、美術館としては小さな建物であるが、入り口は分不相応なロマネスク調で、立派な六本の円柱が並んでおり、なかなかユニークな構造になっている。磯崎新氏の設計と言うだけに、建物全体としても、素敵である。

 円柱の間から正面玄関を入ると、真ん中に階段があり、そこを上がると二階が展示場になっている。入り口の暗幕をめくって中へ入ると、一瞬に別世界に入ることになる。壁面には横尾忠則のY字道路の絵や、昔の西脇のドローイング作品などが並ぶが、奥の次の部屋の入り口の周囲の壁は派手な装飾的図案で満たされ、そちらへ移ると、壁中の装飾に、部屋の床にはめ込まれたガラスや鉄柵なども加わって、びっくりするような派手な異空間を構成していて驚かされる。

 二番目の部屋は真ん中が吹き抜けになっていて、一階の青や緑のタイルが見下ろせ、色彩の対照が面白い。また次の三番目の部屋からは螺旋階段で下へ降りられるようになっていて、その曲線も異空間の構成要素になって、興味を倍加させてくれる。建物全体としては細長い連結列車のような感じになっていて、各部屋共に遊び心豊かで気に入った。

 この本館に沿って、とんがり帽子の瞑想室や、ブランチになったギャラリー等が付属している。美術館の外へ出て建物を廻ってみると、外側に大きく張り出した建物に通じるブリッジがあり、先ほど出てきたJRの駅の入り口がすぐそこになる。少し先には、「日本のへそ」を記念して加古川に架かる「緯度橋」が線路の上を跨いでいるのが見える。

 そして、幾らか離れた美術館の横から続く丘に、階段で登れるようになっており、丘へ上がると、これも二つの円を重ねた、両目を思わせるようなユニークな外観をした、テラ・ドームと言われる宇宙科学館や、野外の遊戯器具が並んでいる広場があり、山の上から滑り下りられる長い長い滑り台も二つあるのが見える。

 こちらの施設は主として子どもを対象といているようが、小さなプラネタリウムや、本物の天体望遠鏡も備えており、解説付きで、月や太陽、金星、土星などの惑星まで実際に覗かせてくれた。この公園の中には、その他、オートキャンプ場や、立派なレストランなどもあり、結構流行っているようであった。

 あちこち巡っている間に 、心配していた帰りの電車までの時間も忽ち過ぎて、レストランで多少急ぎ気味で食事を済ませて、12時半の電車に丁度間に合う具合になった。 

 帰りは西脇市駅で乗り換えて、加古川を経て山陽線の新快速で尼崎に至り、また乗り換えて、宝塚線川西池田まで戻った。朝、川西池田福知山線に乗って、加古川線山陽線福知山線と巡って、丁度一回りして来たことになった。

 時間があれば、もう少し西脇の古い街でも歩いて見たらとも思ったが、だだ広くて、徒歩では無理なようなので、取り止めたが、日本へそ公園あたりだけでも、特に磯崎新横尾忠則にかかる美術館が思いもかけず面白かったので、訪れただけの値打ちは充分あった。

 ことの序でに、少しだけ付け足しておくと、「日本のへそ」というのは昔の陸軍によるこの地の測量が始りで、東経135度、北緯35度の交差点を意味しているそうだが、日本の中心だと名乗りを挙げている自治体は他にも多く、それぞれの基準の決め方によって、群馬県渋川市や栃木県佐野市山梨県韮崎市、長野県辰野市、同飯田市岐阜県関市などで、「全国へそのまち協議会」というものまであるそうである。