兵士の亡霊

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 神戸の兵庫県立美術館とその分館である原田の森ギャラリーは殆ど一直線上の海の近くと山の近くにあり、途中JR灘駅を通り美術館通りと言われたりもしている。原田の森の分館のには横尾忠則美術館があるし、途中にBBプラザ美術館というのもあるからであろう。いずれも比較的よく訪ねる馴染みの美術館である。

 今回は私が昔属していた国画会の写真部の秋季展があるので、原田の森へ見に行った。出展者のメンバーも大分入れ替わっているが、昔一緒にやっていた頃の人もまだ何人か出展しており、懐かしく見させてもらい、現役の知人らとも出会って楽しいひと時を過ごした。

 家を出る時、折角行くのだから、新しい本館の方が何をやっているのか確かめてみると、「昭和・平成のヒーロー&ピーポー」と書いてある。何だか分からないが、折角だから覗いてみようと、ギャラリーを後にしてから、すぐ横の道を下って美術館通りを通って浜まで行った。

 本館の方には「Heroes and People in the Japanese Contemporary Art」と書いてある。入場料1,300円だが老人なので半額、喜んで会場に入った。20世紀の初めから現代に至る社会的な関心の作品で、ヒーロー、カリスマ、正義の味方と無名の人々という対照的な人間のあり方に注目する展示で、会田誠、石川竜一、しりあがり寿、柳瀬安里などの、立体から平面、写真や漫画まで、種々雑多な展示が見られた。

 戦前の「のらくろ二等兵」の漫画や、パレンバンの落下傘部隊の映像その他、戦前戦中の雑誌や絵画なども多く、見ていると懐かしいというより、戦時中の嫌な時代に引き戻されるような感じがした。一部しか見れなかったが、映像作品や関連の映画やDVDの上映などもあるようであった。

 中でも、何と言っても圧巻であったのは、会田誠の巨大な立体作品で、痩せこけた兵士が天井からぶら下がり、伸ばした指先が国会議事堂を模した墓を指しているものであった。戦争中の兵士の犠牲が戦死よりも餓死によるものの方が多かった歴史を踏まえ、無名人と権力の関係を示唆した作品で、超大作であるが、スカスカな中身のない人物が天空に浮いているように作られていた。

 帰り道、いつも覗いて見ることにしているBBプラザ美術館へも寄ってみたら、ここも明治から平成にみるコレクションとか銘うって、ルノワール、浅井忠、梅原竜三郎、ユトリロ、マルケ、ブラマンク佐伯祐三安井曾太郎ピカソローランサンシャガール藤田嗣治、前田青とん、杉山寧、東山魁夷加山又造藤島武二小磯良平内田巌猪熊弦一郎脇田和、田村幸之助、高山辰雄、小出卓二、三岸節子その他、皆小品だが、よくこれだけ集めたものだと感心する内容で、十分楽しむことが出来た。それで老人はわずか200円なのだからたまらない。

こうして神戸の三つの美術館を見て歩き、目の保養が出来た上に、良い程度な運動にもなって楽しい1日であったが、戦争の亡霊はどこまでもついてくる。戦争だけは絶対に避けるべきだと次の世代に伝えたい。