戦後しばらくの頃、日本はスイスに見習って永世中立国家として行くべきだという主張が新聞などに出ていたことがあったが、いつしか遠い昔の話になってしまって、今では覚えている人すらあまりいないのではなかろうか。
スイスはヨーロッパが戦場になった世界大戦の時も中立を貫き通し、戦後もEUにも加わらずに中立を貫き通り、それを世界も広く認めている。
日本でも、戦争中の全国的な空襲や原子爆弾による国土の広範な破壊を伴った敗戦から、いかに国の再建をして行くべきかの議論の中で、もう二度とこの悲惨な惨禍を繰り返すまいとする願望から、スイスに倣って永世中立論などが取り上げられたのであった。
しかし、アメリカの支配下での朝鮮戦争やベトナム戦争などのお蔭で、日本は経済的に再興、発展した後は安保条約などによりアメリカの半植民地としての立場が確立し、平和憲法のおかげで戦争に巻き込まれることだけは避けられたが、自主独立、永世中立などの立場はすっかり消えてしまった。
それどころか、最近は北朝鮮の核やミサイルに絡んでアメリカの尻馬に乗って「圧力、圧力」と言い立てたり、アメリカが話し合い路線になり、北朝鮮への圧力が使えなくなると、今度は中国の脅威が叫ばれるようになり、アメリカ追随の軍備増強が進み、最近の米中貿易摩擦に乗じて、空母やミサイル、宇宙兵器など攻撃的な武力増強にまで進んで来ている。
しかし、現実に目を向けてみると、中国の脅威を考えてみても、現在、差し迫った脅威が起きているとはどうにも考えにくい。政府や右翼、利害関係のある勢力が煽り立てているだけである。経済的にも中国は日本にとって大きな貿易相手であり、相互の利益が決定的に相反するような大きな問題もない。
むしろ、中国脅威論によって、アメリカの産軍共同体に乗せられて、経済的に無理やり武器を買わせられたり、軍隊を増強をさせられているようなものである。すぐに旧式になるような一機百億円もするようなアメリカの戦闘機や高額なイージスアショアなど、どう見ても緊急に買わねばならない状況ではない。
それより外交的な中国や韓国との友好関係を維持、増進する方がよほど国にとっても有利だと思われる。アメリカからすれば、日本はアジアの前進基地なのである。アメリカは日本に軍事基地を置いて、有事の時のアジア攻撃や防御に利用し、またそれに伴う軍需産業の買い手として維持しておきたいのであろう。
しかし、日本が軍事力を強める程、周辺国もそれに対抗すべく軍事力を強めるのは当然であろうから、危険性もそれだけ高くなる。軍事力で圧倒できる相手ではない。それに少子高齢化で人口減少の社会は何より戦争に向かないことは明らかでろう。外交こそが友好関係をを強め、平和を維持する手段である。
仮に万一戦争にでもなれば、前線基地ほど哀れなものはない。当然の実害を受けるだけで、アメリカは不利とあらば、いつでも前線基地を放棄出来るが、日本は勝敗に関係なく大損害を受けることになる。先の戦争でのフイリピンを見れば分かるであろう。
どう見ても、いつまでもアメリカの手下の同盟であっては、将来が危ぶまれる。しかも、次第に世界を制覇するアメリカの時代は終わろうとし、中国やアジアの勃興が顕著になりつつあるのは紛れもない。
そろそろ、アメリカ一辺倒の半植民地状態を脱して、確固たる中立日本に切り替えていくことを模索しなければならない時が来つつあるのではなかろうか。少し先のことを考えれば、ここらでもう一度、日本の永世中立論を考え、拡げていっても良いのではなかろうか。