若者言葉

 最近はやたらと若者言葉というのか、カタカナやローマ字の短い省略形のような言葉が流行り、どんどん新しい言葉が現れるので、老人にはなかなかついていけない。それらの多くははやがて消えていくようなものだから、全てを覚える必要はないが、いつの世でも新しい言葉は若者から始まるものなので、その一部は確実に残って、次の世に生きて行くものであるから、多少はは関心を持って見ていくのが良いであろう。文化の変遷を観察するだけでも興味深いものである。

 「やばい」などという言葉も昔は若者言葉であったが、今や完全に普通の言葉に取り込まれ、最近では本来の意味とは反対に、「素敵だ」とか「気に入った」とか肯定的な褒め言葉として使われている。

 似た言葉で「うざい」となると、「やばい」ほどには定着しているとは言えないであろうが、若者の間では、もう普通の言葉のようで、「やばい」とは反対に否定的な使い方で、「煩わしい、鬱陶しい、気持ち悪い」といった感情の表現に多用されており、やがてもっと広く使われるようになるのではなかろうか。

 「エモい」という言葉もあるが、これはemotionalから来ているようで、「なんとなく寂しい、悲しい」ような気持ちを指し、エモい音楽、エモいメロディなどと言われる。こういった微妙な感情表現の言葉は、案外、次第に広く受け入れられていくのではなかろうか。

 しかし、現在広く使われるようになってきている間略語は何と言っても3〜4字ぐらいのカタカナ語であろう。スマホ、クレカ、テレカ、イクメン、イケメン、コミケ、リアタイ、ワンチャン、パクツイ、オケボ、いくらでもあってキリがない。

 さらにそれらから派生した言葉もあるが、そうなると余計判りにくい。因みに、コミケは「コミック・マーケット」、リアタイは「リアルタイム」、ワンチャンは「ワンチャンス」、パクツイは「パクリのツイート」、オケボは「カラオケボックス」のことだそうである。

 それならイケボは何かと言われてもわからないが、こちらの「ぼ」は「bo」ではなく「vo」で、「声がイカす」ということで、「カワボ」「エロボ」という派生語もあるらしい。

 もう広く使われるようになっている言葉でも、老人にはついていけないようなこともある。コスパとは何か。いきなり言われてもわからなかったが、コスト・パーフォーマンスと聞けば何のことはない。

 ひらがなの言葉としては「あけおめ」などはもはや大人も使っているし、「とりま」が「とりあえずまあ・・・」という意味で広がっているようである。その他「かまちょ」は構って頂戴。その他、好きを「すこ」と言ったり、良いいことを「よき」、そうだねとの相槌は「それな」となったりするらしい。また言葉の語尾を「み」としてわかったを「わかりみ」、うれしいを「うれしみ」などと言い、「つらみ」「ヤバみ」などもあるそうである。

 日本社会にこれだけ英語が入ってくると、必然的に若者言葉にも英語に由来したものも多くなる。「ふあば」というから何かと思えば、favoriteを略したもので、「お気に入り」「いいね」と同義で使われるのだそうである。

 文の終わりについたwwwは笑いだろうとすぐに想像がついたが、JKビジネスと言われても何のことかわからない。JKとは女子学生のことなのだそうである。その他「ks」が「既読スルー」だったり、TKMKが「ときめき」で、TBS が「テンション・バリ・下がる」だと聞いても「へー」というだけである。

 省略語ではないが、コンピュータ関連の言葉でストレージとよく出てくるのでの何ことかと思っていたらstorageのことであった経験があるが、仮名文字英語は難しい。外国人が日本語を習う時に、漢字を覚えるよりも難しいと言われることもよくわかる気がする。

 英語と日本語のチャンポンで出来ている若者言葉では、「disる」がもっともよく使われているような気がする。「でする」とも書かれるようだが、英語の接頭詞disから来ており、「相手を否定する、侮辱する、軽蔑する、見下す」意味で用いられるようである。これも案外定着するかも知れない。

 しかし中には難しい若者言葉もある。「乙」一字で何のことかと思えば「お疲れ」という判じ物でした。一番難しいのは「卍」。テレビの若者番組に出ていたので、調べると解説欄に「調子に乗っている」「仲間との絆」「あまり意味はない」と出ていたが、未だにどのように使われるのか理解出来ていない。

 昔から若者たちはその時にある言葉をいじったり、新しい言葉を産んだりして、これまでになかった自分たちの表現を作って来たものだが、最近は単に話し言葉だけでなく、SNSなどの文字による通信が発達してきたことによって変わってきたようである。

 文字入力を手早く済ませて、自分の意思を伝えるために、絵文字が考案され、多用されるようになるとともに、言葉も短縮形で打ち易いものが求められるようになった。それが上記のような色々な若者言葉を生み出すこととなったのであろう。カタカナ、ひらがな、ローマ字、絵文字と多様で便利な言葉が、日々大量に生産されることになったものであろう。

 色々の言葉を見ていて面白いと思ったのに「フロリダ」というものがある。Line上でのことであろうか。「風呂の入るから離脱する」という意味だそうで、若い人の現状をよく現していると思って感心した。

 ここに書いたような若者言葉は私の知っているごく限られた範囲のもので、「若者言葉辞典」とか「若者新語略語辞典」といった辞書まであるぐらいで、いちいち解説するいとまもないぐらい多い。しかも、毎日のように膨大な若者言葉が生まれている。

 もっとも、これら若者言葉のうち多くのものは一時的なもので、時代の変遷とともの消えていくであろうが、それらの中の一部は新しい時代にあった言葉として、日常生活に根を下ろして、広く使われるようになって行くのではなかろうか。

 コンピュータの入力が音声中心になって行けば、またその影響も受けるであろうし、将来のことは分からないが、いつの時代になっても、新しい若者言葉が生まれ、言葉や語彙が変化して行くことには変わりがないであろう。もしも、それを世の変遷とともに、長い目でずっと追うことが出来れば、どんなに楽しいことでろうと思われてならない。