富士はやはり神々しい

 富士山は東京へ行く時などに何度も車窓から見ているし、昔河口湖や山中湖から眺めたこともある。また甲府から赤富士を見たこともある。昨年の暮れには、孫の来日時に、一緒に箱根に行き、大湧谷から素晴らしい富士山を眺めもした。

 しかし、本栖湖精進湖へは行ったことがなかったので、西側からの富士山の姿は知らない。そんなこともあって、富士五湖周遊のツアーの旅行社のパンフレットを見たので、それを利用して富士山をぐるりと回って見物してきた。

 昔から「富士は見るもの、登るものではない」と言われてきたが、今回は富士の裾野を一周することとなり、四方から富士山の違った姿を眺めてきた。一泊二日の旅程だったが、二日とも快晴に恵まれ、丁度富士山の冠雪の具合も良く、最高の富士見物であったと言えよう。

 大阪を朝に出て東名高速を走り、まず初めは、久能山日本平に新しくできた展望台からの眺めであった。快晴の秋晴れで、富士山もよく見えたが、ここからの富士山はよく見慣れたもので、富士山ばかりでなく、清水港や美保の松原、駿河湾から伊豆半島までの眺望が素晴らしい。静岡の市街地も良く見晴らせた。

 そこから富士山を時計方向に巡って一周したわけだが、まずは朝霧公園あたりから、いつもとは少し違った富士の西面の眺望を楽しみながら、本栖湖に到った。朝に大阪を出ているので、その頃にはもう午後四時頃となり、ここで撮ったと言われる千円札の富士山の姿も、少し影が差し、落ち着いた姿をたたえていた。水面に少しさざ波が立っていて富士の投影像が見れなかったのが残念であったが、湖畔の紅葉との組み合わせも良く、結構満足のいく光景であった。

 そこから精進湖の近くを通り、西湖の北岸を抜け、河口湖に着いた頃には、もうあたりはとっぷりと暮れ、富士も夜の帳に包まれて見えなかった。ここでは、「もみじ回廊」と称する紅葉のライトアップのあたりを散策したが、ちゃちな公園で、ライトアップの仕方も悪いのに、外国からの観光客ばかり多く、暗くて危険で、時間のロスのように感じた。

 その晩はそこから少し北上して、石和温泉のホテルに泊まった。安いツアーだったので仕方がないが、夕飯も今ひとつだったし、やたらと大きな陶器や木製の置物が多く置かれているホテルだったが、和洋折衷の作りで、部屋の中に段差のある、何だか落ち着かない時代遅れの感じのするホテルであった。

 二日目は、朝から笛吹市の水晶店を見学させられた後、富士急の下吉田駅に行き、そこでバスを降りて、近くの新倉山の350段の階段を伸ぼり、戦没者慰霊塔の五重の塔の上あたりから富士山を眺めて写真を撮った。こんな所にまで大勢の外国からのツアー客でいっぱいなのに驚かされたが、今時はインターネットなどの影響が強いのであろうか。

 五重塔を入れた富士山の写真を撮り、景色を堪能して山を下り、下吉田駅まで戻り、そこからまたバスに乗って、今度は忍野八海という所へ行った。富士山の伏流水の湧き出た小さな池がいくつもある所で、昔は霊場のような場所だったらしいが、今では俗化して、大勢の客に溢れる観光地になっている。池に映る富士山なども見られたが、食堂やお土産店が人で溢れているだけの感じの所であった。

 ここで少しゆっくりして昼食を済ませてから、今度は最後のスポットの山中湖畔に行って、再び大きな湖を背景に雄大な富士山を見た。ここからの富士は遮るものがないのでゆっくりと富士の全貌を眺めることができた。

 山中湖を去ってからは、山道をドライブして御殿場に抜けたのだが、曲がり曲がった道を走る間に富士は右へ行ったり左へ行ったり、前かと思えば後ろに行ったりした挙句に、後方に聳えた姿を最後のバスがトンネルに入ってお別れとなった。

 二日間、晴天に恵まれたこともあり、充分に富士を堪能させて貰ったが、やはり富士山は他の山とは違うことを痛感させられた。多くの山々を従え、一人孤高に聳え立っている富士山は、日中晴天の下ではスマートで優雅に見えるが、少しばかり日が陰った姿を近くで見ると、俄然、他の山を圧倒して、高々と崇高に聳え、神々しとでも言いたくなる姿である。昔から神がかりに感じられた所以が理解できる。

 やはり富士は神々しく、人々の心の故郷として信仰の対象になったことが理解できる。