最近の文部省の汚職事件で、官僚の息子に入試の便宜を図ったことから、東京医科大学の調べが進むうちに、同大学の入学試験で、以前から同窓生の子息には入試の点数に加算する便宜を図った来ていた前例があることが明らかになった。
おそらく同窓会から子息の入学に対する強い要望があり、私立大学であり、同窓会に頼らなばならないようなことも多いので、初めは特別な例として便宜を図ったものの、一旦そのようなことを始めると、次からも断れず、次第に暗黙のルールのようなものとなっていたのではなかろうか。
そんなところに、大学が世話になった官僚からの依頼があれば、特別な例として、従来からある同窓会指定の優先ルールを利用して便宜を図ることになりやすい。
ところが調べが進むうちにこの大学では、その他にも、女子の方が相対的に入試の成績が良いので、女子の入学者数を減らすために、女子の入試の成績からはある係数で一律に減点するようにして、入学する男女の比率を調整していたことが明らかになり、問題になっている。
私立大学であるから、入試の方式など、ある範囲では、大学の都合で自由に決められるであろうが、あらかじめルールを明らかにしておかなければ、公正であるべき大学の社会的な姿勢が問われることになるのは当然である。
寄付をしてくれる人には入試の点数が足りなくても、入学させるというようなことはある程度許されるかも知れないが、何の公表もなく、男女によって成績を処理することで入学を左右させることは、男女同権の基本的な人権擁護の立場から許せない。それに公平な取り扱いを前提として入試を行なっているのに、裏でこっそりと操作をするとなると詐欺行為ともなる。
どうしても女子の比率を減らしたければ、少なくとも、あらかじめ男女の定員を公表するなりして、入試のルールを明らかにすべきであろう。入学の可否の対象はあくまでも人間であり、単なる数ではないことを忘れてはならない。
恐らく、ことの初めは同窓会子弟の優先入学があったので、男女の入学者数が問題になった時にも、深く本質的な思考もせずに、安易に同窓会子弟の制度に倣って、入試成績を操作して調整することにしたのであろう。
医師の人材紹介会社「エムステージ」(東京都品川区)が医師を対象にアンケートをしたところ、一律減点を「理解できる」「ある程度理解できる」と答えた人が計65%に上ったことからもわかるように、医療現場の実情では、妊娠、出産、育児などによる女性医師に対する働く環境の対応が遅れているので、女性医師が煙たがられ、出来れば男子優先にしたい大学側の事情はわかる。
しかし、その解決策は女性医師が出産後も働き続けられるよう、医療現場が根本的な働き方改革を進めることであり、女性の人権を無視して、安易に入試の成績などで操作して良いものではない。
ところがこの大学当局者には女子の志願者の人権問題など頭になくて、女子入学者数の調整という大学の事情の方が優先して、そのための手続きとして、既存のルールの応用から、安易に入試成績から減点するというような発想が生まれてきたのであろう。
大事なことはいかなる場合においても、人間としての基本的な立場から離れてはならないという倫理が身についているかどうかということである。安易に目先の解決策や利益のみしか見ないところに大きな落とし穴のあることに気をつけるべきだろう。