是枝監督の「万引き家族」という映画がカンヌ映画祭で最高のパルムドーム賞とやらを取ったというので、日曜日に見に行ってきた。噂に違わぬ興味深い映画であった。
母親の年金をあてにした夫婦と嫁の妹、それに過去に何処かで何らかの経緯で家族として一緒に暮らしている少年を合わせた五人による家族としての共同生活。年金で足らない分を息子の日雇い建設現場の仕事や、少年との共犯による万引き、嫁のパート、妹の風俗営業まがいの怪しげな店での稼ぎなどで賄っている設定になっていいる。
住居は大きなマンション群に囲まれた古い陋屋で、昔は隅田川の花火が見えたのだが今は花火は音しか聞こえない。そこへある時、偶然マンションのベランダで親の虐待にあって傷だらけになっていた少女を見つけ、家に連れて帰って一緒に住むことになる。
こういった社会の底辺に追いやられた疑似家族の生活が描かれているのだが、血の繋がった普通の家族といわば他人の集まった家族、万引きとか、パチンコで隣席の人の球をくすねるような細やかな犯罪と社会によく見られるいわゆる犯罪、親による少女の虐待とその子の誘拐などの対比を静かに観客に突きつけている。
やがて母親が死んで葬式代はないし、年金をストップされる恐れから母親の死体を庭に埋めることになるが、やがてふとした万引きの失敗から全てがバレて、偽装家族も消滅し、警察が関与することになる。こうした社会ドラマとも言えそうな筋書きを、正義を振りかざして訴えるというのではなく、事実を淡々と描き出して観客に考えさせようとしているのが良い。
それに、これまで知らなかったが、安藤さくらという嫁さん役の女優の演技が素晴らしかった。今度テレビの朝の連続ドラマに出るそうなので楽しみである。彼女の取調べ室で泣く場面、樹木希林がパチンコ玉を盗んだのを見られて「しー」と合図する表情、それの家族の楽しみを表現した海水浴の映像などが忘れられない。
エンタメの要素もあって充分見て楽しめる映画でもある。