老いの果ての映画

 一昨日と昨日、2日続けて老人の、それも最後に近い老人の生き方を描いた映画を見たので記しておこう。

 一昨日のは、Long Long Vacation (原題はThe Leisure Seeker)という映画で、認知症になった元大学教授と、転移性の末期癌におかされた妻の夫婦が、子供達にも内緒でThe Leisure Seekerと名付けた自分たちの古いキャンピングカーでこっそり家を抜け出し、マサチューセッツの自宅からはるばるヘミングウエイ縁りのフロリダのキーウエストまで行く話で、人生の最後を二人で楽しもうというロードムービーである。

 途中でいろいろなことがあった末、キーウエストに辿り着くが、細君の方は癌の悪化で救急搬送されるが、病院から無断で脱走したり、男の方は認知症で勝手に出かけて行方不明になったりするなどもあり、最後は二人でキャンピングカーの中で心中するという結末となる。

 認知症の老人が運転し、転移性の癌で生きているのが不思議なぐらいの細君と一緒に、アメリカの北から南までをキャンピングカーで走るというのだから、実際にはありえない話だが、人生の終わりを夫婦が揃って旅行を楽しんで、そのまま死ねるならば、万人の望む憧れのエンディングの方法と言えるかも知れない。ロードムービーで場所も変わるし、内容も豊富なので結構楽しませてくれた。

 なお話の本筋からは離れるが、この映画でも感じたのは、アメリカ社会における銃の問題の根の深さであった。この二人も銃を車に積んでおり、主人の方はいざという時には銃で自殺させてくれと頼むし、路上で出会った強盗を細君の方が銃で追い払ったり、男の方が弾の入っていない銃で人を脅す場面などもあり、普通の人の生活の中への銃の浸透が日本などとは全く違うことがわかる。

 昨日見たもう一つの映画は、Luckyという邦題で(原題はHarry Dean Stanton is Lucky)、アリゾナか何処かの砂漠地帯の田舎の話で、元々独身を通してきた90歳になる独り者がaloneとlonelyとは違うと言って、自分一人で毎朝決まったヨガの運動をし、ミルクを飲み、馴染みの食堂へ行ってコーヒーを飲み、決まった常連と酒場でブラッディ・マリーを飲んで議論をしたり、クロスワードパズルをしたりと、田舎の狭い世界で、毎日同じような決まった生き方をしているロードムービーとはおよそ正反対の話である。

 場所が限定され、人物も限られているので、カントリーソング風の歌唱を入れて場面を繋いでいるが、あまりドラマ性がなく、場面が同じで変化に乏しく、映像の楽しみが少ないので、見た後の印象としては一昨日の映画に圧倒される。これなどは原作があるのかどうか知らないが、映像でよりも、むしろ文章で読んだ方が興味深いのではなかろうかと思われた。

 客観的に見れば孤独(lonely)だが、自分ではむしろ孤独の中で(alone)、毎日をそれなりに規則正しく過ごしている老人の姿はよく描かれているが、それがいつまで続くか、この後どうなるのかという不安を暗示的にでも伝えてくれていたらもっと良かったのではなかろうか。

 なお、主人公がたまたま食堂で出会った同じように太平洋戦争を戦った老人との会話が出てくるが、アメリカ側から見た沖縄戦など様子の一端が聞かれて興味深かった。