車内で化粧

 先日、電車の中での飲食について触れたが、最近は車内で化粧する女性も増えた。ことに朝によく見ることからすると、寝坊をして決まった出勤時間などに間に合わないので電車での移動の間にそれを済ませようと言うケースが多いのではなかろうか。

 昔は人前で化粧するのは娼婦と決まっていた。そのため、車内で化粧していて娼婦と間違えられて声をかけられた女性がいたという話を聞いたこともある。

 それでも今はそんなことにお構いなしに、当たり前のように電車の中で化粧している女性を見かける。 忙しすぎてか 寝坊のために時間がないのか、あるいは時間を有効に使うためにか、電車での移動時間を積極的に利用して化粧しているようである。

 見るとはなしに見ていると、最近は随分色々と沢山な化粧道具があることに感心させられる。それに化粧用のパフか何かのケースについた様な小さな鏡を見ながら、引き替え、取り替え、次から次へとバッグから小さな刷毛や小物の道具を出したり、入れたりして、よくもまああそこまで、手際よく化粧が出来るものだとあっけにとられるぐらいである。

 今の化粧は昔のように口紅に頬紅などよりも、目の周囲の化粧に重点が置かれているようである。アイシャドウをつけ、アイラインを引き、まつ毛までつけるようで、するべき仕事もなかなか多い。それを電車が最寄駅に着くまでに仕上げなければならない。

 電車が空いていて座れればやりやすいであろうが、いつだったか、私が座っている前に立った女性は立ったまま器用に化粧をして、つけまつげまでつけるので、感心して見ていたことがあった。

 もう終着駅が近づいているのに片方のまつ毛がまだ全然手付かずなのである。もう終点間際なのに間に合わない時にはどうするのだろう。片方だけでは余計に人前にも出られないにじゃなかろうか。他人事ながら気になっていたが、とうとう電車が止まり乗客が降り出したと思ったら、いきなりバッグからサングラスを出してかけ、あたふたと降りていった。慣れた仕草だった。ああいう手があったのかと感心されたものであった。